表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/301

第三十五話 合流

「ふぅ……! 何とかなった」


 二つになり、倒れた魔族の巨体。

 その眼は白く濁り、異様な速さで腐敗が進みつつあった。

 高位の魔族になればなるほど、その身体は魔力によって構成される部分が大きい。

 そのため生命が失われると、すぐに形が保てなくなってしまうのだろう。

 こうして魔族の死を確認した俺は、姉さんたちの方へと振り向く。


「みんな、大丈夫だった?」

「ええ、こっちは平気です」

「聖女様が結界を張ってくれたおかげで、何とか無事だよ」


 元気そうに笑う姉さんたち。

 姉さんが気を利かせて結界を張ってくれて、本当に良かった。

 周囲を見渡せば、整然と並べられていた長椅子は吹き飛び、太い柱は穴だらけ。

 聖堂自体がよくぞ持ちこたえてくれたというような状況である。

 もし結界がなければ、みんな吹き飛ばされてしまっていたに違いない。


「あの凶悪な魔族を倒すとは。いつの間にか、腕を上げたようですね」

「あはは、姉さんの魔法が無かったら危なかったよ」

「ノアならば、あの魔法もすぐに一人で使えるようになるでしょう。戻ったらすぐに修行しましょう」

「いや……すぐに修行は、勘弁してほしいかな……」

「それはいけません。いつまた、あのような魔族が現れるのか分からないのですから。常に危機感を持って過ごすことは、戦う者として――」


 つらつらとお説教を始めたファム姉さん。

 しまった、変な方向に話を進めちゃったな……!!

 俺はとっさに後悔するのだが、もう遅い。

 一度こうなってしまうと、こっちの話を全然聞かないんだよな。

 下手に話を遮ると、お説教が五割り増しになったりするし……。

 俺がそう思っていると、すっかりぼろぼろとなっていた聖堂にとんでもない大音響が轟く。


「ジーークーーッ!!!!」


 うわっ!? ライザ姉さん!?

 どうやら、スカイドラゴンを降りてここまで走って来たらしい。

 扉を乱暴に押し開けた彼女は、そのまま俺たちの方へと歩み寄ってくる。


「良かった、無事だったんだな!!」

「ええ、まあ」

「魔族はどこだ!? 私もだいぶ回復したからな、手伝おう!」

「……それならもう倒しましたよ。私たちで」


 話を遮られたことが、どうにも気に入らなかったのであろうか。

 どこか冷たい声で、ファム姉さんがライザ姉さんに告げた。

 その妙に迫力のある声に、流石のライザ姉さんもわずかにたじろぐ。


「そ、そうだったのか。それは良かった」

「良かったではありません! ライザ、あなたがいながら何をしていたのですか!!」

「私は、その……他の魔族を倒すのに精いっぱいでだな……」

「もう! 剣聖たる者がその程度でどうするんですか!」

「なっ!! 言っておくが、私の倒した魔族は――」


 ああでもない、こうでもないと言い争いを始めてしまう姉さんたち。

 するとここでクルタさんが恐る恐ると言った様子で尋ねる。


「あ、あの!! ちょっといいですか?」

「……あら、何でしょうか?」

「その、さっきから話を聞いていると……聖女様はジークのお姉さん何ですか?」

「ええ、お姉ちゃんです」

「つまり、ライザさんとも姉妹?」

「その通りです」


 ファム姉さんの返事を聞いて、クルタさんたちはひどく驚いたような顔をした。

 彼女だけではなく、ニノさんやロウガさんまでもが戸惑った顔をしている。

 そりゃそうか、剣聖と聖女が姉妹だってことはほとんど知られてないもんな。

 姉さんたちも、普段は隠すようにしてるらしいし。


「ちょっと待ってくれ。シエルもジークの姉ちゃんだって言ってたよな? ということは……」

「ええ、私たちの妹ですね」

「おいおい、剣聖と賢者と聖女が姉妹なのかよ……」

「それだけで、世界の半分ぐらいを牛耳ってないかな」

「そんなことは……さすがにないですよね。姉さん?」


 俺がそう問いかけると、姉さんたちは何故か意味深な笑みを浮かべた。

 いや、ここでそんな顔されるといろいろシャレにならないよ!

 我が家って、別に世界を影から操ってるとかそういう訳じゃないよね……?

 姉さんたちなら本当にできそうなのが怖いのだけど。


「……それより、早く事の顛末をギルドに報告した方がいいな」


 いつの間にか、騒ぎを聞きつけた住民たちが聖堂の外に集まっていた。

 このまま放っておくと、街が大混乱に陥ってしまうかもしれない。

 早いうちにギルドや領主様に連絡して、対応を取ってもらった方がいいな。

 魔族が街の中、それも教会で暴れたなんて話が無秩序に広がったらとても厄介だ。


「ファム姉さんはどうします?」

「そうですね、何かあった場合は現地の教会に報告する手はずだったのですけど……」

「その教会が、この有様ですものね」


 そう言えば、教会にいるはずのシスターさんたちはどうなったのだろうか?

 まさか、この戦いに巻き込まれちゃったんじゃ……。

 俺がそんなことを考えたところで、聖堂の脇にあったドアがガタッと音を立てて開いた。

 そして中から、見慣れたシスターさんたちが現れる。


「……ほっ。もう終わったようですね」

「シスターさん! 良かった、避難してたんですね!」

「ええ。とんでもない魔力が発生したので、結界を張って籠ってました」


 そう言うと、シスターさんはファム姉さんの顔を見て首を捻った。

 どこかで見たことはあるが、名前を思い出せないといった状態らしい。

 すると姉さんは、柔らかく微笑みながら自らの身分を告げる。


「初めまして。挨拶が遅れましたが、聖女のファムです」

「せ、聖女様!? 来訪されるとはお伺いしておりましたが、は、はひぃ!?」

「ああ、そんなに慌てなくても! 過呼吸になってしまいますよ!」


 予期せぬ大物の登場に、動揺を隠せないシスターさん。

 姉さんは彼女の肩に手を掛けると、やれやれと困ったように告げる。


「私はひとまずこの場に残りますから、皆さんは先にギルドへ」

「わかった。ファムも後で来てくれ、いろいろと聞きたいことがある」

「ええ、ではまたあとで」


 こうして俺たちは、ファム姉さんを教会に残してひとまずギルドへと向かうのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ