何も無い所から嵐は生まれない
月ヶ原学園の設立された目的は社会における優秀な人材を育てるため。中等部で学問を徹底的に叩き込ませ、高等部ではこれまで学んだこと全てを活かして困難に立ち向かわせて、より強くて賢い人を育てるというものだということを高等部入学式の際に告げられた。
元々は社会をリードする優秀な人材を育てるためだけだったが学園に来ても何も学ぼうとしない学生もいたために、卒業すればどんな職にもつけるという噂を鵜呑みにし卒業することだけを考えてろくに勉強しないような輩を高等部への進学試験の際に落とし、「進学試験落ち」というレッテルを貼ることでそういう将来設計がいい加減な奴らを社会のトップに立たせないという目的もあるようだった。またこのような教育方式を外部に漏らした場合、卒業特典は取り消しとなり、即刻退学になるという。秘密を守るという訓練をしているようだ。
中等部時代に俺と一緒に遊んでいた奴らが進学試験にまとめて落とされたのもそういう訳だったと理解出来た。そこでひとつ気がかりなことがあった。もう薄々気づいていると思うがこういう事だ。
俺だけ進学できたという事実
一方その頃校長室にて…
「大変です!校長ー!!」
教頭が慌てて校長室に入ってきた。
「これはこれは教頭先生、どうしたのですか?」
「じ、実は先ほど中等部の方から連絡がありまして進学試験の際に不手際があり、落とし損ねた男子生徒がいるとのことです」
月ヶ原学園において過去そのような事例はなく明らかに異例なことであった。
「なるほど、それは大変なことですね。何か策は考えているんですか?」
「……。その生徒を今この瞬間に退学にするというのはいかがでしょう」
「そんなことをすれば生徒側から苦情がくるでしょう。ましてやその事をメディアにでも報告されたらこの学園の未来はありません。いっそこの事実はなかったことにして彼の学園生活を許可し何事もなく卒業させるというのはいかがですか」
「それが…理事長先生から例の男子生徒を卒業させることは学園の方針に反するとのお言葉をもらっておりまして…」
「ふむ…では学園の方針に乗っ取って彼を退学に陥れましょう。それなら理事長先生も文句はないでしょう」
「しかし、そんなことが可能ですかね。第1にそれこそ誰かに勘づかれてしまいませんか?」
「大丈夫ですよ。我々がやった証拠などは予め消しておきますし、あくまで彼自身が学園の基準に達していないと証明させるだけなのですから」
「は、はぁ…」
10秒程の沈黙のあと校長が口を開く。
「その中等部で落とし損ねた生徒とう彼の情報を聞かせてください」
「あ、はい…。まず彼の名前ですが……」
この学園から狙われる生徒の名前が言い渡された。
「津雲下隆二という男です」
「……あ、ああ。なるほど、津雲下くんですか。そういう事ですか」
「え……、校長、お知り合いですか?」
「いえ、彼の名前は聞いたことがありませんね。初めましてでしょう。」
この時の校長は明らかに動揺を隠しきれていない様子だった。
「作戦決行はいつにしましょう」
「そうですねぇ、色々と準備が必要でしょうし5月の1学期中間テスト辺りから始めましょうか」