第2話 侵略者
◇◇◇
――時を同じくして。
ここは後にアステロイド・ベルトと呼ばれる、火星と木星の軌道の間に位置する小惑星帯。
音を伝える空気がない異質な静寂。その静寂の宙を数十隻の宇宙船が突き抜けていく。
いわゆる輸送船と呼ばれる、小型のものからそれを何十隻も並べたような大型のものまでさまざまいる。大型のものは漂う天体――それも数百メートルの大きさはあるのだろう――にも引けを取らないくらいに大きい。
あの艦に乗る数百の乗組員だって、きっと今は皆緊張の面持ちでいるのだろう。
「他星侵攻」
もともとこんな小さな部隊が担うものでは無いはずだ。
まさか自分が司令官として行くことになるとは思ってもみなかった。
一人物思いにふけていると、部屋の扉が無遠慮に開けられる。
「クク少佐、そろそろ時間です。司令室へお戻りください」
「分かっているよ、そう急かすな」
ノックもしないで入ってきた副官、エレン中尉の言う通り、作戦開始までの時間は残り僅かだ。席をたって部屋を出る。
しばらく無言で歩いていると、中尉は少しいたずらっぽい顔で尋ねてきた。
「緊張してるんですか、少佐。佐官で侵攻の指揮を任されるなんて凄いじゃないですか」
「そんなことはない。上からしたら体のいい厄介払いだろう」
そう言うと中尉は、笑顔のまま、
「まあまあ、そんなこと言わないでくださいよ」
と子供をなだめるように言う。小馬鹿にされたような気がするが、彼女はそんな性格だ。もうとっくに慣れているので、そうだな、とはにかんだ。
会話をしているうちに、やけに重苦しい雰囲気を放つ扉の前に来た。
扉の前に立って手の平を向けると、自動で眼球、静脈の生体認証がされ、重苦しい見た目にそぐわないくらいに静かに扉が開く。
司令室内は空調により気温や湿度が常に最適化されているが、その空気はどこか重い。
コツコツと軍靴の踵を鳴らして、階段構造になっている司令室のいちばん高いところにある席につく。中尉も席の隣に立つ。
「これより作戦行動を開始する。第1段階は砲射撃による攻撃と大気圏への突入、その後南半球の大陸に上陸し、橋頭堡を確保する」
「「「「「了解!」」」」」」
普段は快活な部下たちの声さえも、どこか緊張しているように思える。
コンソールのキーを叩く音がやけに耳に響く。
「主砲、エネルギー装填。回頭完了」
「全艦、第一射準備完了」
……ここまでくればもう後戻りはできない。
軽く息を吸う。
「撃て!!!」
その瞬間、幾十もの光の直線がまっすぐに目標へ放たれる。
その眩しい光の筋が、宣戦の布告と、これからの惨状への合図となったのだ。
by N