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マスターガイスト  作者: 諏訪未来
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第8話 近衛家


近衛家は代々東京の一等地に住んできた。


世代が変わる毎に新しい離れを立てて行き、使わなくなった家は次の世代のために建て壊されるか、何かのための別邸として使っていた。それは何かあった時に財閥としてすぐ集まりやすくする事を目的としていて、その一体感が近衛家の躍進を支える一因でもあった。


現近衛家当主、近衛一郎は代々受け継がれてきた金融業を軸としてあらゆる業種でその手腕を発揮し、今の経済界のドンとして幅をきかせていた。伝統を重んじる近衛家であったため一郎は男児を欲したが、結局男子は生まれず一郎は長女の綾子を次期の近衛家の担い手として育てきた。綾子は近衛家が日本のみならず世界にどれだけ貢献してきたかを幼少期から叩き込まれ、近衛家の威厳を学び続けた。その綾子は自分の住む家を今までの日本式家屋とは趣向を変えて洋式の家を建てることにした。それは古くから続く近衛家のしきたりに一風を招き入れ、更なる近衛家の発展を意識したものだった。


その洋館は中世の宮殿を思わせるような作りになっており、石造りの角ばった箱型の建物に円錐型の屋根を持った四つの丸い塔が四方に立っている形をしていた。玄関の前には噴水を設けて、西洋特有の幾何学的に整えられた木々で敷地を覆い囲った。


綾子は結婚相手にも、銀行員などの金融関係者よりも近衛家をさらに発展させる何かの技術の技術者と結婚しようと決めていた。


夫の和久とは東京帝都高校で知り合う事になる。


和久は旧皇族の家系である一条の直系であったが、保有していた会社の経営が次々悪化し、そのせいで華々しい他の旧皇族と格差があった。和久はそれを埋める事を目標に勉学に励み、将来伸びるであろう仮想空間の研究をしようと思っていた。

そんな先見性のある所とすらっとしたたたずまいに綾子は自然と惹かれる事になった。そして和久が行こうとする道に自分も付いて行こうと思った。一方、和久は竹内京子という同級生に実は恋していたのだが、綾子が自分に好意を持っていると知ると一条家の復興の為にも綾子と付き合うべきだと思うようになり、綾子の思いは成就する。


しかし、父、一郎は没落した旧皇族の和久を近衛家の跡取りとして時期早々には認めなかった。和久は一郎に認めてもらう為、常に成績上位をとり続け、東京帝都大学大学院まで進学し、首席で卒業した。そんな近衛家への献身的な行動のため、最初は自分の躍進のために綾子を利用しようとしか考えていなかったのだが、いつの間にか和久も綾子に好意を持つようになっていた。


大学、大学院では仮想空間へのフルダイブ技術の研究をして、卒業後はその経験を活かすため近衛エレクトロニクスに入社。そこで、その時代最も競争の激しかった脳機能の外部出力の研究に従事することになった。そこで幾つもの技術革新に貢献して、晴れて一郎から認めてもらうことができ、綾子と結婚する。そして結婚後は綾子が立案した洋館に住むことになり、和久の苗字が一条から近衛へと変わった。


そんな洋館の一室に柊子の部屋があった。


柊子の部屋の壁には本棚があり、女の子には似つかわしくない経済学や経営に関する本が置いてあった。それは柊子もまた長女として幼い頃から近衛家の次期当主としての自覚を植えつけられたという事を表すものだった。しかし、本棚の前に置いてある書き物ができるほどの大きさの机には、最近買いそろえた恋愛雑誌が大きな束となっておいてあった。


「なんで今の時代に制服というものがあるのかしら。確かにそれだけで殿方には魅力的なのかもしれませんが、おしゃれのバリエーションがだせないじゃないの...」


柊子は大きな鏡の前でつぶやいた。


そこへドアをノックする音が聞こえた。


「お嬢さまお車の用意ができました。」


柊子がドアをあけると侍女の黒崎が立っていた。


「今日は15分早く出るっていったでしょう。何をやっているの!!」


「申し訳ございません...」


柊子と黒崎は早足で階段を降りて行き、リビングの扉を開けた。


そこでは和久と綾子が朝食をとっていた。


「お父様、お母様、今日は急いでいるので朝食は一緒に取らないわ。行ってくるわね。ごきげんよう。」


そういうと柊子は軽く会釈をして扉を閉めて行ってしまった。


「いつにも増して、今日の柊子は騒がしいなぁ。最近の柊子の様子はどうなんだ?」


「毎日楽しそうに学校に行ってますわ。何やら学校で好きな方ができたらしいですわよ。」


「それは微笑ましい事だね。柊子が幸せなのが一番だからね。」


近衛和久はコーヒーカップを持つと立ち上がり、窓際へ歩いて行き柊子が車に乗り込む様子を眺めていた。




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