第6話 悪夢
無音の暗闇の中に直人は立っていた。否が応でもその暗闇は直人に付きまとい、今にも直人を押しつぶそうとしている。
「お母さん...父さん...どこにいるの?」
耳を澄ましてもなにも返事がない...直人は無音と闇に恐怖心を抱きつつも手探りで前へあるき始めた。
すると何かにつまずき転びそうになった。
下に視線をおろして目を凝らして見るとそれは人の形をした塊で、身体には切り傷があり、うつぶせになって黒い液体を大量に流している。
それは妹の楓が死んでいる姿だった。
楓の認識の瞬間から直人の心臓の鼓動は激しくなった。
視線の延長上にはもうひとり横たわっている。それはまぎれもなく自分の母親であった。
直人の呼吸は速く浅くなり、苦しくなって跪いた。
「お母さん...息が...たすけ..て......」
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直人はベッドの上で目を覚ました。
身体は冷や汗でびっしょりだった。
「またあの夢か...」
直人はそのまま自分の部屋の天井をみつて、あの日の事を思い返した....
事件があったあと、直人は病院のベッドで目をさました。ベッドの傍らには二人の見知らぬ男の人が座っていて刑事という事だった。二人の刑事は事件について直人に聞いてきたが、自分が知っているのは母と妹の死だけだった。二人と話していると徐々に自分の見たものは夢ではなくて現実なんだと感じられた。二人の刑事は事件についてのことを話してくれたが、そこには父親も殺されたという情報も入っていた。あの日からだろうか、どんな事も鮮明に覚えられ、自分の中にもう一人の自分がいるようになったのは....
直人は自分のベッドから起き上がって目を閉じ、現実モードから仮想モードに切り替えて、先日図書館で手に入れた記事を精査して読み返しながら、自分の認識と食い違いがないかを確認した。
今までの情報によると、捜査で分かったのは死亡推定時刻は15時頃。楓が玄関、母さんが台所、二階の仕事部屋で父さん死んだこと。一階の居間は荒されていたが物色された形跡がないことと、日中の、しかも家族がいる時間帯に犯行を行っているという事で、突発的な物取りの犯行ではなく計画的犯行と断定されたている。しかし、父さんは恨みを買うような人柄ではなく、金銭面のトラブルも全くなく、考えらるとすると父さんの仕事の関係で何かのトラブルに巻き込まれたのではないかという事。警察で家にあった父親のコンピューター等が解析されたが特になにも手がかりになるものは発見されず、しかも日中の犯行ではあったが逆に人通りが少なく、目撃者が発見されず捜査は難航。そしていまだ解決に至っていない。
新聞では2日程大々的に一面で事件について報道されていたが、3日目からは文部科学省の不正発覚の影響で、それ以降は報道されていなかった。各社とも犯行の詳細については似たり寄ったりで、犯行現場の様子よりも生存者がいることに重きを置いているような書き方に感じられた。
しかし一社だけ事件についての比較的詳細な情報と考えられる動機について書いてあった。
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亡くなった世帯主である相葉博嗣さんは東京帝都高校を卒業後マサチューセッツ電子工科大学を卒業し、博士まで進み博士号を取得。専攻は脳機能の外部出力の研究で、その成果により天才技術者としてエレクトロオプティカル(EO)社に入社。その後脳機能の外部出力の研究とともに脳移植の研究に従事する。その過程でいままで生体間での移植しかできなかった脳移植をアンドロイドに移植するという研究を行っていた。脳移植と仮想空間を認識する研究分野において相葉さんを知らない人はおらず、本誌が複数の研究従事者に取材を行った所、相葉さんの喪失はその研究分野において10年以上の後退をもたらすのではないかということだった。相葉さんは複数の特許を個人で取得しており、金銭面でのトラブルよりも研究分野の利害関係によるトラブルに巻き込まれたのではないかと推察される。母親の京子さんと長女の楓ちゃんの腕には縛られたような跡があり、監禁状態であった可能性がある。また相葉さんはその日はたまたま特別に休暇で、相葉さんが事件のあった日に居合わせた事は偶然とは考えにくく、相葉さんのスケジュールを把握できる関係者の犯行が疑われる。本誌でも事件の解決に向けて事件の真相について迫って行きたい。(文 日野雅也)
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「父さんのスケジュールを知り得る人物...母さんと楓の監禁か....」
直人はエレクトロオプティカル(EO)社を検索してみた。すると今は近衛エレクトロオプティカル(KEO)社となっていた。直人は会社のメインサーバにハッキングして社員名簿まで到達。その後7年前の東京本社所属の研究開発部の名簿を手に入れた。
「この中に俺の家族を殺したやつがいるのか...」
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