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マスターガイスト  作者: 諏訪未来
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第42話 消えたガイスト


直人のMASTER GEISTのアカウントは消えてしまった。


新しいアカウントを作ってみる。

自分の仮想空間につないだが、シンクロ率が低く、思うような計算速度をだせない。これでは、以前のようにハッキングすることは到底不可能だ。ましてやあのウィルスを放つシステムに対抗できるはずもない。

しかも、個人情報も抜き取られてしまったに違いない……


自分の所にたどり着くのも時間の問題かもしれない――


直人は動揺の度合いを強めた。

しかし、いまはこの不完全な状態でも、今の計画を進めるしかない。


直人はその男にメールを送った後、ずっとその男を尾行していた。

そして、予想通り近衛の敷地にはやってきたが、研究棟へはいかずに、いそいで中央管理棟に入っていった。

そして、その後すぐにウィルス攻撃を受けた。あそこには何かがあるに違いない……




一方、その男は困惑していた。

「相葉博嗣……あいつは確かに死んだはずだ……」


天才科学者・相葉博嗣。死してなお、その存在は得体が知れない。仮想空間上に“意思”のような何かを残したというのか?だが、いくら相葉が天才でも、自分の意識をあの時代から維持できるはずがない。もし可能であったならば、俺が殺した直後から、何かしらの痕跡がすでにあったはずだ。

だが今まで、何もなかった。……最近になってBARシステムの脅威アラートが頻発し始め、事態が急に慌ただしくなった。これは警告か?脅しか? 旧エレクトロオプティカルにいた人間の仕業なのか?



男は考えを巡らせながら、すぐに研究棟へと向かった。


研究棟内を歩き、旧エレクトロオプティカル社に所属していた者たちの動きを注視する。

Gurdianでアカウントごと破壊したのだから、相手も必ず動揺しているはずだ。

特に「脳機能拡張研究開発部」には注意を払った。

そこには、かつて相葉博嗣と直接関わっていた者たちがいる。


一人、二人と観察していく――

しかし、普段と変わった様子は見られない。


男はいらだちと共に、さらに疑心暗鬼になる。


いてもたってもいられず、ある人物に男は電話をかけ、会って話したい旨を伝える・・・

これは、一度集まって情報を共有しなければならない・・・


――――――


直人は男が去ったあとに中央管理棟に入ってみた。

受付のアンドロイドが出迎えて、直人の入口証をスキャンした。

アンドロイドに尋ねると、どうやらエレベーターをつかったらしく、どの階に行ったかまではわからないという事だった。あたりを見回すと、防犯カメラが設置してある。しかし、今の直人の状態では何もすることができない・・・


「ひとまず今日はここまでにするしかない・・・」


直人は研究棟をあとにし、とりあず自宅へ戻ることにした。

自分の情報は取られたかもしれないが、逆に姿を消したら怪しく思われるかもしれない。

ガイストのアカウントは父親の名前だし、問い詰められても、いくらでも言い訳できるだろう。


しかし…… あの速度のシステムに勝つには近衛が管理している全AIを動かすためのセントラルシステムぐらいじゃないと太刀打ちできないだろう。しかし、もう自分のアカウントではそこに入り込むほどの計算スピードをもっていない。これは、万事休すかもしれない。


直人は数日間、家にこもってハッキングの試作品も作ってみた。

しかし、思ったような結果は得られない。もう警察に頼るしかないのか・・・


とその時、柊子からの連絡を受ける。


「今日は生徒会の集まりがあるので、顔を出してください。迎えに行きますからね。」

いつものように、一方的である。


直人は、ずっと 家にいて息が詰まっていたので、気分転換に生徒会の集まりに参加することにした。



――――――


夏の暑さにもかかわらず、生徒たちは皆、きちんと制服を着こなし、身だしなみも整っていた。

生徒会長の佐々木とは、メールではやり取りしていたが、実際に会うのはVR研究会で近衛家を訪問して以来だった。

九条、北条、長澤――その三人は汗ひとつかかず、まるで美しく造られたアンドロイドよりも美しい。

「直人くん、その後、大丈夫だった? 後遺症とかないといいんだけど……」

「メールにも書きましたが、もう全然大丈夫です。」

――頭は大丈夫なんだけど、ガイストのアカウントは大丈夫じゃない!!――と心の中で思う。


「それはよかった。VR研は伊集院君のことだったり、須藤さんの事だったりと、いろいろ事件が多いよね。会長としては、生徒会よりも心配が尽きなかったよ。」

佐々木は苦笑いを浮かべた。


「というわけで、3年生は夏で引退なので、その引継ぎについて話すために、今日は集まってもらいました。」

「もう、そんな時期なんですね……」

「まあ、引き継ぎといっても、次の会長を任命したら、あとはその人が細かいことを決めていけばいいだけなんだけどね。ただ、生徒会で毎年管理している“思考プログラムAI”に、今年はどんな要素を入れるかだけは、今のうちに決めておきたいと思ってる。今年は特に、大衆的な動向って何かあった? それをAIに反映させたいから、何か思いついたら教えてほしいんだけど...」


「大衆の動向という点ではやはり、メディアコンテンツの充実があるんじゃないでしょうか?仮想空間の使える領域がどんどん大きくなっていっているから、より現実の壮大な世界を肌で感じる事はやっぱりすごいと思いますね。ライブとかも一体感を感じることができると思うし・・・」


「ライブといったら、やっぱり、『ガイストの真実の世界』が一番でしょう。世界最多のライブ接続数で、日本で誇れるものの一つだと思うわ。」

――うれしいが、そのガイストのアカウントが大丈夫じゃない!!――と直人は心の中で思う。


「でも、ここ数日、マスターガイストが消えたって話をききましたよ。その部屋ごと。」

「えっ、そうなの?いろいろあれだけ暴露してたから、ついに閉鎖されちゃったのかなぁ??」

――あながち間違ってない・・・―― と直人は心の中で思う。


「そうか、では今年は供養もかねて“マスターガイスト”と入力しておこう。そしたら、何かの思考プログラムに彼の心意気ぐらいは反映されるんじゃないの?」と佐々木は笑いながら言った。


「佐々木さん、一応それ、全世界に影響するシステムなんですから、真面目に考えてください!!!」


・・・ガイストの供養・・・思考プログラム・・・全世界に影響・・・


直人は「これだ!!!」と心のなかで叫ぶ。


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