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マスターガイスト  作者: 諏訪未来
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第31話 柊子の提案


柊子はVR研のソファーに脚を組んで座っていた。そして、その隣には直人がいる。その物理的な距離はとても近いが、直人との心理的な距離は遠くなってしまった。


自分の立てた計画は完璧だったはずだ。だが、春彦のせいで全てが台無しになってしまった。自分の見込み違いだったのかもしれないが、春彦は須藤里香と話す段階にすら持って行けなかった。自分の役割を果たさないだけならまだしも、逆効果生む出し、結果的に直人と里香の関係がより親密なものにしてしまった。当初の計画では、須藤里香は春彦と茉由の相手で忙しくなって、物理的にも心理的にも直人と離れるはずだった。しかし、今は直人の隣に座っている。


この状況を打開するには特別な何かが必要だわ...



一方、副会長の宇津木聡は研究開発スペースで、黒いグラスのVRゴーグルをいじりながら、その開発とは全く別の事を考えていた。


今年はVR研の会員も順調に増えて、数々の試作品も短期間のうちに作成する事ができた。文化祭の発表に向けて順調に進んでいた。しかし、春彦が不幸な形で学校からいなくなり、須藤里香も失踪したりと、普通ではない事も起こってしまった。そのせいで、VR研は少し重い空気になっているように感じる。宇津木はこの悪い流れをどうにか断ち切りたいと思っていた。しかし、これと言って何か思い浮かぶわけでもない....何かいい案はないものか....


宇津木はいったん作業をやめて会議室兼休憩所に行く事にした。


ちょうどその時、そこに居合わせた2年生の水田雫が宇津木に声をかけた。


「聡さん、それサングラスですか?これからの海の季節にはもってこいですね。」


「これはサングラスじゃないんだけれど......」


宇津木は水田雫の言葉にハっとなった。


「海!!海はいいね!!!」


そう言うと宇津木は急に元気になって走りだし、会議室兼休憩所に駆け込むと、少し息を弾ませながらそこにいた全員に話しかけた。


「みなさん!!提案があります!!...伊集院君がいなくなってしまって、非常に残念な事ですが....そのせいで、このVR研はいささか重いムードになってしまっているように感じます。そこで、気分を変えるためにも、親睦会を開いてはどうでしょうか?季節的にも丁度いいので、みんなで海に行くとか...どうでしょうか?」


・・・・「海ですか?文科系に海を求めるなんて聡さん体育会系ですね。」・・・・「夏は海でしょ!!」・・・・「海いいですね!!」・・・・「いいんじゃないですか?海なら女性陣の水着姿も見れるし....」・・・・


里香はその「水着」という言葉にを反応して、少し俯いた。そして直人はそれを察知する。


そうか、里香に水着は.....もし目的地が海になってしまったら、また里香が傷つく事になるかもしれない....


直人は突然ソファーから立ち上がると、「海は無しです。文系の集まりとしては海なんてありえません!!!」と言い放った。


それがあまりに唐突だったので、その場の空気が一瞬とまり、それは海に行く話の流れすらも結果的に打ちとめる。


「そう言われてみると、海って日焼けしますよね。」.....「確かにVR研で海はないなぁ。山はありかもだけど...」....「いや~山も中々大変だよ。この際、ちょんと冷房の効いた所がいいのではないですか?」....「VR使い過ぎて日を浴びてない人多いんじゃないの?」.....


宇津木の「海」から始まった連想ゲームは意外にも広がりをみせる。そして収束とは程遠い方向へに向かってしまったのだが、ある意味、VR研のみんなが活気づき、重い空気を払拭するには十分な効果はあった。


「近衛さんはどこがいいと思う?」


宇津木が柊子に近づいて来て柊子に聞いてみた。柊子は正直VR研の親睦会なんてどうでもいいと思っていたが、確かにイベントというものは予想だにしない事が少なからず起こり得るし、何か流れを変えるチャンスに成り得る。柊子は考えた。直人にメリットがあって、かつ自分に好意を向けさせることができる場所....それは...


柊子も直人と同じように急に立ち上がった。それと同時に皆の視線が集まる。


「みなさん、それでは、()()()をとって、うちの近衛グループの研究所を回る事にしましょう!!それならば、VR研の趣旨に合っていますし、最新の世にでてない技術を目にする事ができます。修学にも繋がるでしょう。なんならうちのグループの者に送迎させますわ。わたくしの屋敷はいくつも部屋があるので、そこで宿泊でも構いませし。」


その言葉を聞いて宇津木の目が子犬のように輝いた。


「近衛さん....本当にいいんですか?....しかも最新の技術!!」


「全然構いませんよ。大した人数でもないですし。持つ者の義務としては当然です。」


「それは凄い事じゃないですか!!世界一の研究施設が見学できるなんて!!それでは今回は海ではなくて近衛さんの所の研究施設という事にしましょう。海はまた次の機会に。夏休みにでも行けばいいだけの事だから、今回は文化祭へのアイデアを得るためにも、近衛さんの所にしましょう!!」


「聡さん一人で決めちゃってるじゃないですか。まぁいいですけど...」


「相葉直人、あなたはどうなのですか?」


「もちろん。是非行ってみたいので、賛成。」


「おーそれはそれは....フフフ。」


柊子は小悪魔的に笑った。


相葉直人が近衛家にくれば、その施設の素晴らしさに感嘆して、改めて近衛家のすごさを体感させる事ができる。その上、家に来れば相葉直人を両親に紹介することもできて、これから先の事を考えてもプラスになるだろう。しかも、学校以外で会う事になるのだから、自分のお洒落のセンスを示す絶好の機会でもある。そして、家の隅々まで知り尽くしている自分にとっては物理的に相葉直人と須藤里香を引き離す事は容易だ。生徒会で自覚してもらったように、相葉直人はこれからの世界を動かす人間なので、その事を強調すれば、相葉直人が誰を選ぶべきは、改めて分かってくるに違いない。後はそれをどう演出するかだけだ。


柊子は春彦の事で、最近ずっとイライラしていたが、新たな目標ができて、気分が上向いた。宇津木の何気ない「海」の提案は柊子の気分さえも払拭する事になった。


一方、直人もこれは『近衛家』の情報を知るいいチャンスになるはずだと捉えていた。近衛エレクトロニクスは父のいた、エレクトロオプティカル社を買収した会社だ。何かしら父につながるものがあるに違いない。その上、これまで集めてきた情報は、全てなんらかの形で全て『近衛』が関わっている。それがどのようにかは未だ不明だが、仮想空間の情報ではなく、自分の目や身体で感じる情報は何かしら事件の解決の糸口を示してくれるに違いない。その期待から直人の鼓動も少し速まり、直人も少しだけ高揚した。



そんなこんなで、いろんな思惑が交錯する中で、VR研は近衛家と近衛家が所有する研究施設に行く事になったのだった。




これからさらに面白くなる予定です。

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