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マスターガイスト  作者: 諏訪未来
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第29話 真犯人の作り方


直人は自分を少し反省した。今回警察が自分の所にやってきたが、それは春彦と里香の両親を破滅させるために、少し派手にやりすぎたためだ。よく考えればわかる事だったが、大きく動けばそれだけ不確定要素が増え、自分の匿名性が崩れてしまう。


伊翠の尋問を振り返り、自分につながりそうな要素を考えてみる。


今回の尋問に対しては、最後には伊翠を味方につけたと思われるので、不信を描く対応はしていなかったと思いたい。いきなりの警察の訪問は予期してはいなかったが、ハッキングをするようになってからは、可能性は低いがこのような事は起こるのではないかと仮定はしていた。その日が来ても大丈夫なように仮想モードの設定を予め作って置き、そのおかげで今回ある程度は自己制御ができたのではないかと思われる。


二人は今回動画の件と伊集院家の破産の捜査で自分の所までやってきた。


動画についてはどうか。スクリプトについては一般の言語を用いているし、潜り込ませた場所とアイデアが特殊なだけで、そのプログラム自体は特別なものではない。いつウィルスを設定したかのログについても消去済みなので、動画の情報から自分に辿り着く事はまずないだろう。


今回買収に使った会社はどうか。今回買収した香港とシンガポールのキャピタルファンドは買収した後に、実績を書き換え、AIによって適切に経理を合わせているので、現地の帳簿さえ照らし合わされなければ、その会社がダミーである事はばれないだろう。たとえ、それがダミーであったとわかったとしても、どのようにその会社が設立されたかは全てデジタル情報で書き換え済みなので、資金の流れの不自然さで会社が疑われることはないだろう。


買収した伊集院家の会社については、主に香港のキャピタルファンドを使い、アンドロイドを通して指令を送っているが、今の時代、オンラインでの会議は主流となっているので、これも問題になる事はないだろう。しかも自立型AIのアンドロイドを使っているので、日本政府の意思決定でも採用されているように、その決定は合理性があり結果として利益を着実に生む。会議の為に現地まで赴くという事が時間と経費の無駄でしかないと言う事が社会に浸透した事で変な詮索をされる事はもはやない。しかも、買い取った会社の社員は優秀なので今後の成長も期待でき、その過程でうまく株を捌いていけば、株価操作だったと疑われる事はないだろう。


しかし、里香が疑われない為には犯人を作り出さなければならない....



///////////////////////////



伊翠と新島はまた伊集院亭にきていた。


前回と同じようにインターホンを押す。すると同じようにインターホンから声がした。


「どのような御用件でしょうか・・・」


白川が答える。


「警察なんですが、事実確認で、またお話をお聞きしたいんですけど、入っていいですか?」


「左様ですか、それではご主人様にお伺いしますので、少しおまちください・・・」


白川は全く同じ声のトーンとリズムで二人を対応する。


その後、伊翠と新島の二人は許可を得て前回と同じように長いが短い玄関への道を歩く。今回は前回と比べてきれいに草が毟りとられ、綺麗になっていた。そして、またこれも前回と同じように、白川が旅館のような玄関の前で二人を待っていた。


「よくお越しくださいました。」


伊翠と新島は案内されてまたあの綺麗な応接間にやってきた。そして前回と同じように春彦の父親に促されてソファーへ座る。


「すみません。春彦君も呼んできてくれませんか?」と伊翠が白川に頼んだ。


しばらくすると、白いTシャツを着た姿で春彦がやってきた。そして春彦の父親の横に座り伊翠の話が始まった。


「今日はお二人にこのお話しをしに来たんですよ。実はですね・・・」


そう言うと伊翠は一枚の紙を木製の机の上に置いた。それは逮捕令状で、そこには『容疑者 白川智美』とかいてあった。それをみた瞬間、春彦と春彦の父親は声を失い、そこに書いてあった『容疑者 白川智美』という文字から目が離せなかった。伊翠はその紙を机から取り上げると、白川に開いてみせた。


「白川智美、不正アクセス禁止法違反で逮捕する。」


新島は立ち上がって手錠をとりだし、理解できずに固まっている白川に手錠をかけた。


白川はあまりの事に喉が詰まり声がでなかったが、かすれた声で「ど...どういうことですか。私は何かしたのでしょうか....」と聞いた。


「何を言っているんだ。今回の春彦の動画の件はお前の仕業だろ。」


白川は驚き、目を見開いたまま固まった。


「どうしてこんな事に...」


すかさず、伊翠は説明を始める。


「まず動画ですが、カメラの位置と解像度、そしてログからして、アンドロイドに内蔵されているカメラからの映像という事がわかりました。そして、それが何を意味しているかというと、この家に精通していなければ、この映像を手に入れる事は出来ないという事です。しかし、今の所これは状況証拠なだけであって、白川智美は容疑者の一人にしかすぎません。ですが、白川智美のメールの送信履歴を確認したところ、自分のアドレスから自分宛てに動画を送った記録が残っていまして、その動画のログと問題になった動画のログが一致しました。それを公に流した事は個人情報の流出なだけで、刑事事件ではありません。ですが、不正に取得した事は不正アクセス禁止法に抵触します。」


「おそらく白川智美の目的はこの家に取り入る事だったのでしょう。株価が暴落した後に、この家の仕様人で残ったのは白川智美だけです。不自然ですよね?その上、極度に落ち込んでいた春彦君をおそらく救いたかったのでしょう。あの『リナ』を作り上げたのも白川智美です。」


「どういう事ですか?」


「ヴァーチャルアイドルのリナはあるマッチングアプリから生まれてきたんですけど、そのオーナーアカウントの持ち主が白川智美なんです。それを伊集院系列だった会社に売り込んだのも、白川智美です。」


「なんでそんな事をする必要があったんですか?」


「それは彼女の日記を読めばわかります。白川は春彦君に恋をしていたんです。しかし、毎日、毎日、春彦君は近衛柊子の話ばかりで彼女は傷ついていました。そして、話を聞くだけならともかく、性的にも春彦君は目覚めてしまう。そして、どうにか自分がその対象にならないか画策し始めたんです。そこに須藤里香の交際の話も加わった。そして彼女は思ったのです。春彦君のお金がなくなり、自分と同じ立場になれば自分に振り向いてくれると・・・そして、彼女は春彦君の動画を流出させます。流出の目的は株価を操作することではなくて、春彦君に他の女性が寄り付かなくするためだったんです。そのテロ行為は功を奏し、白川は春彦を慰める役割を手に入れる事ができました。それと同時に一族の会社の暴落をどうにか戻さなくてはと考えるようになります。そして、ヴァーチャルアイドルリナを作り上げて、系列会社のPRに使うように売り込んだんです。結果としては伊集院という名前は会社から消えてしまったので、伊集院家の為にはなりませんでしたが・・・須藤里香をモデルとして使ったのは、彼女の価値を相対的にあげることで、もう自分のライバルを増やさない事だったらしいです。以上がこの事件のいきさつです。仮想空間の『日記の部屋』にあった白川の日記にイニシャルトークですが、全て書いてありました。」


白川は大人しく聞いていたが、苛立ちと恥ずかしいのがごっちゃになって、顔が真っ赤になっていた。伊翠が話し終わった後にすぐ反論にする。


「まってください。そんな事書いてません。脚色がすぎます。事実をまげないでください。私はそんな事まで書いてないです。しかも不正アクセスなんてした事もないです。マッチングアプリなんて言うのも知りません。」


「言い訳しても無駄だよ。ここに全てのログが残っているんだから。」


伊翠はそう言うと、アカウントと日付、時間が印刷された紙を白川に見せた。白川は興奮で体がガタガタと震えている。


「こんなの嘘です。何かの間違えです・・・」


白川は真実を訴えようと春彦を見る。しかし、春彦は軽蔑した目で白川を見ている。


「そんな・・・」


白川の目から涙がでる....


「あとの事は警察に戻ってからゆっくり聞かせてもらうよ。」


そう言うと伊翠と新島は白川を連行した。


白川は涙を流しながら連行されていったが、ずっと春彦から目を離そうとはしなかった。が、逆に春彦は白川から目を反らせる。


白川が去った後、その場は急に静かになった。


そして春彦とその父親は、しばらくそこで静かに座っていた....




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