第21話 破滅への序曲
直人がVR研に行くと、投影用スクリーンに映像が投影されていて、啓太と茉由が楽しそうにゲームをしていた。
「何か楽しそうだね。新作ゲーム?」
「おー直人、これは俺が作った最新のアホなゲーム。正解を出すと、どんどんバグが増えていって、最後には操作不能でゲームオーバーになるの。面白いのは二択なんだけど、どっちも嘘っぽかったり、どっちも正解っぽかったり、その差が結構微妙で、AIを使ってそれらしい問題を作っているんだけど別に解答がわからなくても次に進めるの。本当に質問もバカらしいし、我ながらいいアイデアだと思うんだよね。今は試作品で、言葉だけだけど、これをアイドルとの恋愛シミュレーションゲームに組み込めればなって思ってるの。」
「へーすごい。」
「やってみる?結局ゲームオーバーになっちゃって、今の所クリアとか設定してないんだけど。」
「うん、やってみる。楽しみ、楽しみ。」
啓太はポインタータイプのコントローラーを直人に渡す。
「まずは名前を登録して。それからゲームスタートするだけ。正解しちゃうと次の質問の数が増えちゃうからね。」
「おっけー。」
直人は名前を登録したのちゲームを開始した。電子音が基調の軽快な音楽が流れ、黒の画面には白の文字で問題が浮かび上がってくる。
<< 第一問、 あなたは誰? 「相葉直人 or 相葉植人」>>
思わず直人は「相葉直人」を選択してしまう。
<<「正解」>>
「あ、逆か」直人はどぎまぎしたが、啓太と茉由は爆笑する。「ね?何気に難しいでしょ?」
その後、画面には同じ質問が3つ表示された。
<< 第二問、貴方が好きなのは? 「いぬ or ねこ」>>
「なんだこれ、どっちでもいいじゃん。」と言いつつ直人は「いぬ」を選択。
<<「正解」>>
「なんだよこれ。マジどっちでもいいじゃん。」
啓太と茉由はさらに爆笑する。「そこが面白いんだよ。」
<< 第三問、あなたは須藤里香が好きである「はい or いいえ」>>
「なんで個人情報まで入っているのこれ?これってどっかのメタデータに接続されてるの?」
「そうそう、柊子のおかげで、うちのAI、結構いいところのデータバンクにもアクセスできるみたいよ。」
「この問題は間違えられないな。」直人は「はい」を選択した。
<<「正解」>>
「あ、そうだよね。不正解だよね。無意識に正解をえらんじゃうな。まぁ正直に答えたいものはゲームでも正直のままでいいけどね。」
「なんだそれ。」
啓太は鼻で笑う。
直人はその後、結構粘りはしたが、結局画面が質問で埋め尽くされて「ゲームオーバー」になった。
「すごくおもしろかった。普通に売れるじゃん、これ。」
「そう言ってくれると嬉しいな。後は女性陣の皆さんが、アイドルのアンドロイドの為に身体をスキャンさせてくれれば、もっと現実味のあるゲームになって来るんだけど・・・うちの女性陣はみんな美人だから魅力のあるのができると思うんだけど・・・」
「・・・なんかイヤらしいな。」茉由は訝しげな表情で啓太を睨む。
しかし啓太は意に介さず、「特に茉由のが一番いいかも」と言って茉由をからかった。
直人は啓太のこのゲームに感心したと同時に、このアイデアは使えると直感した。
これを使って全てを「スッキリ」解決してしまおう。
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直人は最初のターゲットを伊集院春彦に決める。
春彦さえいなければ、里香が辛い過去の事を思い出す事もなかったので、里香が傷つく事もなかった。常人では理解できない理由で、里香との関係を金で買おうとし、里香を金品で買える物のように扱った。金に物を言わせて里香の親を買収し、その結果、知ってか知らずか里香の傷つく度合いを著しく高めた。よって、その罪はあまりにも重く、破滅の道を歩ませる事にした。
伊集院家はその名のブランドから、どの分野の業種においても顔が利き、逆に言うと、どの分野からも利益を得てきた。特に海外との交流の窓口で活躍し、外交に手腕を発揮してきたため、ワインや葉巻などの嗜好品や宝飾類、ブランドの宣伝の分野を独占していた。
直人はそこに少し小細工をする。
しばらくするとその効果が面白いように発揮され、伊集院系列の会社の株価が一気に下がり始めた。
原因は、伊集院系列のサイトで決済するために、「購入」ボタンを押と、ある動画がポップアップして再生されるのである。その内容は、ある青年がある写真を舐めまわすように何度も見て、悦に達するものであった。そのポップアップを消そうとすればするほどそのポップアップは増えていき、全てを見終わるまで、再起動しても消えないというものだった。
直ちに、仮想空間上ではこの「恥ずかしい行為」をしているのは誰かという、ある意味犯人捜しが始まり、めでたく、それは伊集院家の御曹司である、伊集院春彦だという事が判明した。そのバグのしつこさと動画の内容からその動画は一気に拡散し、伊集院家のブランドは一気に失墜する。それと共に伊集院家の系列会社の株は売りに出され暴落した。直人は株が下がり切った所で全ての関連会社の株を購入し、実質会社を乗っ取ることに成功する。そして、「伊集院」の名前を全て消し去って伊集院家を破滅させた。社会的地位のあるものはちょっとの失敗で一気に失墜する事を見事に世間に示したのである。持つものが持たなくなると人は離れていき、伊集院家の人間の殆どは孤立した。
春彦はこの全ての過程を最悪の形で味わう事になる。
まず発覚後すぐに父親に呼び出され、激烈に叱られた所まではまだ可愛いもので、事態が大きくなって収集が付かない事がわかると、父親が春彦の元にやってきて、激高と共に春彦を握りこぶしで力いっぱいなぐった。春彦は急激すぎる暴落に「とまれ!!」と叫びつつ一日中過ごす。家族からも見放されて、食事もとらず、株価の暴落を観察するのが日課となった。そして極限で下げ止まって、安堵したのもつかの間、やつれた父親がやってきて「破産だ」と言って倒れこんだ。そのうえAIによる価値判定もEランクとなり、一気に最下層となる。働かなくてもいいこの時代のため、食べる事には困らないが、結局最後に残ったのは住む家だけだった。
その後、仕様人達はもちろん伊集院亭から去って行き、伊集院亭は閑散としていた。
春彦はと言うと、自分の部屋に籠って自分の椅子に座り俯き、「こんなの何かの間違えだ・・・」と小さい声で繰り返し唱えているのだった。
そこに侍女の白川がやって来る。
「なんだお前、ボクを笑いにやってきたのか。」
春彦は勢いはあるが、力のない言葉で言った。
「そんな事はございません。春彦様。私はお側でお仕えしておりまして春彦様がどんなにロマンチックで優しい方だと言う事を存じております。これからもご一緒させて頂ければと思います。」と言って頭を下げた。
春彦はその言葉に反応して一瞬頭を上げたが、またすぐに俯いて、「どっかに行け、もうボクにはお前に払う金なんて無いんだから。」といった。
しかし、その言葉にも白川は怯む事はなかった。
「いいえ。お金などいりません。お側に居られればそれだけで、この白川は幸せです。」
その言葉は春彦の琴線に触れ、春彦の緊張の糸は一気に切れる。そして春彦は声を出して泣き出した。白川は子供をあやす様に春彦を抱きしめる。
「誠に恐れ多いのですが、お慕い申しておりました・・・・。これからも末長くよろしくお願いできたらと思います。」
まだまだ続きます。先が気になると言う方はブックマークを、もういいかなと言う方は感想を頂けると励みになります。




