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マスターガイスト  作者: 諏訪未来
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第18話 それでもやはり


里香の携帯に1通のメールが届く。それは継母からで、今度の土曜日に一度帰ってくるように、というものっだった。


里香は直人と言う煌びやかな人と知り合い、少しずつ人生に前向きになってきたのだったが、ひと目継母の名前を見て、一気に憂鬱になった。


両親二人にとって自分がいる事は邪魔以外の何ものでもなく、ただ継母が家事などで楽をする為にしか存在していなかった。今回のメールも継母が家で楽をしたいがために送ってきたんだろうと里香は思った。足かせにしかならないこの関係を今直ぐにでも絶縁すべきなのだろうけど、年齢的にも本当の意味で自立するまではその足かせからは逃れる事はできない。


里香は「分かりました。」と1通返し、土日は実家に戻る事にした。


自分が家から出た事で、逆に温かく迎えてくれる可能性だってあるのだから....



————————————————————————


土曜日、規則正しい生活のせいか、通常通り6時半に起床した。寮には共通の食堂もあるが、部屋にもしっかりとしたキッチンがあり、そこでトーストにマーガリンと言った質素な食事を取る。


長年の偏った食事の影響で、里香には豪華な食事をすると言う概念がなかった。服にも同様でお金をかけず、質素なものしか着る事はなかった。しかし、里香は自然とその素朴な服装ですら引き立てる事ができた。


電車とバスを乗り継ぎ、実家のあるタワーマンションへと行く。長年、いい意味でも悪い意味でも見慣れた景色が里香の周りに広がる。


タワーマンションの自動ドアを入って入口で呼び鈴を鳴らして自分が来た事を告げる。7階にある実家にたどり着き、一回深呼吸をしてから呼び鈴を鳴らした。そして、ドアが開く...


「よく来たね。上がりな。」


出だしは好調のように思える。さて何をやらされるのだろうか...これまでの身に染みた経験から思考をめぐらし、継母の反感を買わなく、かつ自分の自尊心をこわさない最大公約数を導きだす。


中に入ると、父親も在宅で食卓の椅子に座っていた。家事の手伝いではなさそうだ。


「よく来たね。まぁかけなさい。」


父親も自分に関心を持ってくれているように見える。やはり、離れて暮らす事で子供への愛情が戻ってくるという事があるんだろうか。


継母は冷蔵庫から麦茶を取り出して3人分の用意をし、テーブルへ持ってきた。そして、父親のとなりに座る。


「学校ではうまくやっているのか?」


「うん。それなりにうまくやっていると思うわ。」


「そうか、それならよかった。日本一の高校だ。お金持ちも多いだろうし、普通の高校と違って大変な部分もあるかもしれないね。」


「そういう部分もあるかも知れないわね。」


波風のきっかけをつくらないように、相手の問いかけに対して、できるだけ同じ語彙を使って返答する。


「ところで、今日来てもらったのはお前にお願いがあっての事なんだ。」


てっきり継母から何かさせられると思っていたが、自分に無関心の父親が何かを頼もうとしている事は意外だった。


「同学年に伊集院春彦くんという子がいるだろう。」


里香はその名前が出たことにびっくりした。


「先日うちに訪問してきてね。会食をする機会があったんだ。どうやら、彼は君に好意を抱いているらく、筋を通すために交際を始める許可をもらいに来たんだそうだ。」


里香は全く予想外の事に混乱した。春彦はもちろん知ってはいるが直接話した事もないし、第一、彼は近衛さんにぞっこんのはずだ。何かの間違えではないのか。


「伊集院くんは大金もちの公家の末裔だろう?そんな相手なら全くすごい事ではないか。会食で行ったのも、今では珍しい超一流の中国料理店で、交際の開始の手付け金として1千万をわたされたんだ。別にダメになったとしても返さなくていいといわれて...」


父親はさらに続ける...


「その上、交際がかなったら、祝い金として()()()()()一億円を渡したいと言われたんだ。」


父親は無意識に顔がほころんだ。


「これが金持ちの筋の通し方なのかわからないが、お前にはその申し出を受けて欲しいんだ。お前にはあれだろう?....母さんを亡くしていろいろ大変だったと思うから幸せになってもらいたいんだ。顔もそれなりに整っているし、これはものすごい玉の輿じゃないか。断る理由は全くないと思うんだ。」


父親の顔は明らかにこれから入るであろうお金の事で興奮している。おそらく、私の幸せは考えているのかもしれないが口実にすぎず、自分の娘をお金の道具としてしか考えていないんだろう....


「悪いんだけど、わたし.....すでに交際している人がいるの。だから、それは受ける事は...できない...」


「それはどんな相手なんだ。その彼も()()()なのか?」


「いいえ。普通の家庭の人。でも頭がよくて素敵なの。しかも、伊集院さん他にいいなずけっぽい人がいるから、何かの間違えのはずよ。」


「それは彼も言っていた。でも、それは親の望みなだけで、彼の本心ではないらしい。本気なのを示す為にも、こちらにちゃんと挨拶しに来させてもらったと話していたよ。感心するじゃないか、()()()()()()()()()()、自分の気持ちを押し通そうとしているんだから。」


「そう言うのに感心するんだったら、私の交際を続けようとしている事についても感心してもらってもいいんじゃないの?今まで我慢してたんでだし、私の幸せくらい私に選ばせて!!」


「バンッ!!」


その時突然継母が机を叩いた。


「我慢してた?厳しく育てただけだろ!!おまえは親の言う事さえ聞いてればいいんだ!!今まで誰の金でここまで育ててもらってると思ってるんだ。おまえをどっかにやっちまう事だってできたんだぞ。おまえにはそれくらいの価値しかねーんだ!!それに、今の付き合ってる奴と結局別れたら、おまえには何ものこらねーじゃねーか。日本一の高校に行ってるのにバカかおまえは!!おまえみたいなのは金持ちのボンボンのご機嫌をとってればいいんだよ。金で買ってもらって感謝しな。今の衝動だけで、せっかくのチャンスをぶっこわすんじゃねー!!!」


継母の怒鳴りと、まくしたてる口調に昔の里香が戻って来る。


怒鳴らないで....怒らないで.....怒鳴られるのは嫌だ.....痛いのは嫌だ.....嫌われたくない.....


昔の嫌な光景が頭の中に入ってくる.....


いつの間にか里香の目からが涙が流れている。


愛されたい...直人さんに....でも.....私にはそんな価値あるの?....継母さんの言葉がどうしても正しく聞こえる.....近衛柊子、茉由......私にはない圧倒的な存在価値の差......直人さんにふさわしいのはやっぱり、存在価値のある人であるべきじゃないのだろうか........



里香は下を向いたまま静かに涙を流す....無言の沈黙が空間を埋めていく....



そして、しばらくしてから「分かりました。」と小声で呟いた。




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