第17話 春彦出陣
伊集院亭にて春彦の侍女である白川が春彦のもとへやってきた。
「春彦さま、お待たせしました。例のモノをお持ちしました。」
春彦はそれを手に取って眺める。そして感嘆のため息をもらす。
「なんとお美しい...」
それは一般人には別に大して特別なものではなく、ただの『近衛柊子』の写真だった。
この時代、携帯、時計をはじめ、いたる所に本格的デジタルカメラがあるなかで、伊集院春彦は昔ながらのポラロイドカメラで撮られた写真を愛好し、それで写した写真が好きだった。その拘り様のせいで、柊子の存在を知ってからずいぶんと時間が経つのだが、柊子の写真を手にしたのはこの時が初めてだった。
まず柊子の瞳からはじまり、唇をしばらく見つめ、顔全体をなめまわすように見る。そんなこと何度も繰り返し、悦に達するのである。そしてそれが終わると現実世界に帰ってきて、現実にある事実が重くのしかかってくる。
「どうして、こう毎日毎日柊子さんは冷たいんだ。相葉めぇ...あいつさえいなければ....下賤のくせに....勉強がちょっとできるからっていい気になりやがって....」
相手にされないことを無意識に直人せいにして自分のプライドを守る。
そんな時、携帯に受信音がなり、メールが届いた事を知らせる。
送り主には『柊子さん』と表示されている。
「春彦さん、明日、お話があるので授業が終わってから学校の裏門でお話できるかしら。よろしく。」
春彦はこのメールをみて心が踊り、有頂天になった。そしてすぐさま返信をする。
「愛する柊子さん。よろこんで。」
春彦の血圧は一気に高くなり、胸はドキドキする。
これはついに柊子さんが自分を受け入れてくれたに違いない。やっと相葉なぞ、下賤の輩と気づいて、Aクラスのボク、春彦を選んだんだろう。明日は柊子さんを抱きしめた時に愛で包まれるように、特別な香水をつけていこう。これはとても良いアイデアだ!!
すかさず侍女の白川を呼んだ。
「白川、柊子さんを抱きしめる時に、愛の香りで柊子さんを抱きしめたいんだ。どんなものがいいと思う?」
「そうですね....女性は昔からバラの香りに弱いと聞きますので、バラの香りのものがいいかと思われます。」
「そうか、それでは、その線で最高のものを持ってきてくれ。お母上のところにいけば腐るほどあるだろう。」
「わかりました。」といって白川は立ち去り、しばらくした後、数本の香水を持ってきた。
春彦は丁寧に一つ一つに時間をかけ、イメージをしながら香水を選別する。
「わたくしはあなたの愛の深さに気づいたの。わたくしはもうあなたのものよ。」
そして、柊子をバラの香水の香りと共に抱擁する。
それを繰り返す。どれも、いい香りではあったが、自分が思う最高の香水は選ぶ事ができた。
何回も繰り返し、シミュレーションも完璧で、あとは明日の本番である。
しかし、
香水の刺激と明日の期待からベッドに入っても興奮して眠れない....
香水の匂いは明らかに春彦を興奮させた。
眼を瞑っても、目の前には美しい柊子が鮮明に現れてしまう。そして、完璧なのに、その光景が繰り替えされてしまう。
柊子さん.....柊子さん....柊子さん.......
結局、春彦はほぼ眠れず朝5時には仕様人たちを無理やり起こさせ、全ての毎日の工程が一時間以上繰り上がった。
学校にも早く着き、一人教室で席に着く。柊子の席を眺めて、今日の予定のことを思いまた興奮する。
もうすぐ自分の目にあの美しい柊子さんが映るのだ。
いつにも無く、春彦の胸は至上に高まった。
しばらくすると、生徒が来始め、ついに柊子がやってきた。
が、柊子は相葉と、事もあろうに腕を組みながらやってきた。
春彦の血圧は上昇し、顔が赤くなる。そして、自問自答が始まった。
「なぜ柊子さんは相葉と腕を組んでいるんだ?...付き合っているから?......相葉とBクラスの女の関係はどうなっているんだ....もう別れたのか?.....昨日のメールはじゃあいったいなんなんだ?....相葉と付き合いだしたという報告なのか?.....そうか、そうなんだ。ボクは柊子さんにまた振られるのか.........回答が分からないまま、放課後までずっとこんな気持ちでいなくてはならないのか....頭がくらくらする......なにか星がみえる.......視界が狭い.......」
春彦は気分が悪いと言って、そのまま保健室に行く事になった。
医療用アンドロイドは春彦に血圧の安定剤を飲ませ、保健室で休ませた。春彦は昨日の寝不足の反動から、気絶するように眠りに落ち、そのままぐっすり眠ってしまった.......そして時は流れていく.....
春彦が起きた時にはすでに、夕方16時半過ぎだった。
春彦はあわてて柊子にメールをする。
「すみません。急に体調が悪くなり今は保険室です。本日のお話するという件ですが、日を改めてではどうでしょうか。」
すぐに柊子から連絡がくる。
「体調がわるいのですね。では、そちらにまいります。」
しばらくすると、柊子が現れた。あんなに昨日シミュレーションしたのに、結局、春彦との想定とはまったく違うものになってしまった。
「春彦さん、大丈夫ですか?」
「ええ、ゆっくり眠れたので、もう大丈夫です。」
心配されてしまうなど、何とも男らしくない...
「それで、お話というのは?.......」
今はいい話なのか悪い話なのかわからないので、胸はまたドキドキする。
「わたくしは、春彦さんはとても素敵な人だと思います。」
最初の言葉で、春彦の鼓動はさらに加速した。その結果として春彦の顔は赤くなる。
「私はあなたに期待しているのです。しかし残念ながら、最高の果実であるわたくしを食べるにはまだあなたは男性として経験が足りないと思います。」
春彦の表情は一気に曇る。
「Bクラスである須藤里香あたりで経験をお積みななったらいかがでしょう。そのくらいの事はあなたには容易いことだと思われますが、まずは、わたくしに見合うだけの価値が備わっているのか見せていただきたいのです。」
Aクラスの自分に価値が備わっていない?そんなはずは決してない!!
無意識に自分を守る思考へと転換する。
「わかりました。ボクがあなたにふさわしいという事を簡単にご覧に入れましょう。須藤里香ですね。赤子の手をひねるようなものですよ。」
春彦の闘志に火が付いた。
「それは頼もしい事です。わたくしは期待しているのですよ。」
柊子は小悪魔的に微笑んだ。
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