第15話 作戦開始
茉由は、学校へと向かう坂道を、手をつないで歩いている直人と里香を見つける。それは何気ない美男美女二人が仲良く登校する姿でだった。茉由は昨日の柊子の話が頭に浮かび、どう自然に話そうかと思案する。
二人がゆっくりと話しながら歩いているので、自然と茉由との距離が縮まっていく。
「おはよう。。。」
とっさに平凡な言葉は出てきたが、何か話さなくてはという事が脳裏にかすみ、次の言葉に困った。。。
「きょ、、今日はいい天気だね。」
なんとも馬鹿らしいと自分でも思いつつ、言葉が出た事に安堵する。
と同時にどうすれば須藤里香に興味を持ってもらえるのか、ガールズトークの中身について考える。
ガールズトーク、ガールズトーク、、、、
「そういえば、直人はいつも須藤さん独占しているけど、私は須藤さんと仲良くしていいのかな?」
我ながら、なんとも愚問だ。
「そんなの当たり前じゃん。茉由とは幼馴染なんだし。。。」
直人の言葉は、何の気ない言葉で、その通りだが、その言葉を聞いて茉由の胸は痛んだ。
自分はただの幼馴染みでそれ以上でもないと暗に暗示しているからだ。
もう少し聞き方を変えれば、もう少し傷つかない言葉が返ってきたのだろうか。「独占しているけど」と聞いた事は自分が二人の交際をすでに認めていて、自分は蚊帳の外であることを自分自身で宣言していることと等しい。
「そうなの?ほら、今は二人ラブラブじゃん?邪魔しない方がいいかな~って思って。。。」
自分の言葉にまた胸が痛む。そしてなぜか明るく振舞ってしまう。
「私も茉由さんと仲良くできたらうれしいです。」
茉由さん、、、もう、私はあなたと仲が良くて、下の名前で呼んでくれるのね。
「え?本当に?私も仲良くできればうれしいよ。ほら、直人とはもう、小学校から一緒でしょ?いるのが当たり前というか、手のかかる弟というか、、、だから直人に相手ができるって、嬉しいんだよね。」
「直人さんから聞きました。うらやましいなぁ。。私そんな友達いないから。。。」
うらやましい....確かに柊子の言った通り、自分の強みは直人と一緒にいた時間のようだ。
「まぁ珍しいのかもね。で、さぁ。。連絡先とか交換できるかな。後からクラス一緒だし、直人から聞いてもいいけど、、、」
いつでも、直人と連絡とれる事をさりげなく伝える。
「それなら、後でクラスに着いたら、俺が送っておくよ。」
柊子じゃないけれど、自分が直人と同じAクラスでいる事に少し優越感を感じて少しだけほっとする。
「ほんと。助かるわ。私も須藤さんの事名前で呼んでいい?私なんて呼び捨てでいいから。そう言うの気にしないし、、、」
さっきまで気にしていたのは誰だ?、、、
「うん。全然構わないよ。そう言ってくれると親近感が沸いて嬉しい。」
多分、本当に素直な子なんだろうなぁ、、この子、、、
校門まで行くと近衛柊子がお供の二人と一緒に立っていた。
「ごきげんよう、みなさん。」
柊子は意味深げな目でチラリと茉由に目配せし、直人に話かけた。
「相葉直人、今日のスケジュールですが、お昼には生徒会に顔をだして、昼食を取ることになります。食堂とは別に特製のランチが毎回用意されるので、それを希望なのであれば、事前に伝えておく必要があります、、、、、」
茉由はその隙に里香に話かける。
「ところで、里香ってどこに住んでるの?」
柊子と直人が二人組みを組めば、自ずと茉由は里香とペアを組む事ができて、後のお供の二人もペアになる。更に柊子が直人を引っ張っていくことで、それぞれのペアには距離が生じていき、ペアどうしで、それぞれ独自の空間を作ることができる。
一対一のペアではそれぞれ会話を続けなくてはという義務感が発生し、時間や空間の制約がなければ、その義務を継続してはたさなければならない。
そして、時間がたてば経つほど、その責務を果たした二人は互いに信頼しあい、「絆」のようなものが生まれてきて、ただの「知人」から「友達」というカテゴリーへと移行していく。
茉由は里香と話していて、どんどん新しい情報が入ってくる。話し方やしぐさが本当にかわいらしくて、確かに直人が好きになるだけの事はある。さっきまで、嫌みの一つでも言ってやろうかと思っていたが、その毒気を消し去られてしまった。何を話そうと考えなくても純粋に里香と会話することは楽しい。
気が付くとすでに二人は教室の前まで来ていた。
「私、こんなに里香と話があうとは思わなかったよ。直人、なんか忙しいそうだし、お昼一緒にとらない?」
「うん。もちろん。私は茉由が素敵な子だって事、直人の話から分かっていたけどね。じゃーまたあとでね。」
最初はどう直人から里香を引きはがすか、どんなガールズトークにしようかと悩んでいたが、変な思案とは裏腹に、里香と仲良くなる事ができ、結果的には柊子の思惑の通りの結果となった。
これを続けていけば、直人と里香の間に何か溝のようなものができるのだろうか。
そんな事を考えながら、茉由は教室の中に入っていった。
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