第11話 仮定の先に見えてくるもの
直人は目を閉じて仮想モードから「日野雅也」について検索した。
事件について一番詳しく書いていた毎朝新聞の追記を探すためで、その後の記述から犯人の手がかりを得るためであった。
日野雅也は2087年生まれで当時30歳、一番脂ののった時期だったようで検索すると相葉家の殺人事件の記事のほかに文部科学省の不正疑惑についての記事も多数見つける事ができた。
2117年の11月の下旬、教育関連の大手である皆川商会が、文部科学省の歴代の事務次官に対して慣習として現金を渡しているという内部告発があった。そして皆川商会はそのみかえりに日本の教育現場で使われる資材と教材のコンテンツを独占する事ができたのではないかと言う疑惑がたった。その後、報道はいっせいに文部科学省の不正疑惑に傾くようになる。皆川商会がK国から資金援助を受けていて、K国の思想をより強く反映させるように圧力があったという噂から、愛国心の名の下に報道は白熱し、その結果、責任を取る形で時の千堂道夫内閣は総辞職に追い込まれた。
千堂内閣解散後、与党の亀山宗一郎は私的な資金流用の防止と資金運用の透明化を訴えて、内閣総理大臣に就任に成功し、それと同時に近衛エレクトロニクス(KE)社の思考型AIが導入化された。それにより意思決定の過程から予算の配分、使われた資金までAIにより決められ、すべてが一般に公開されるようになった。
その不正疑惑報道についても日野雅也の記事は面白い仮説を立てていた。
確かに歴代の事務次官が新しく就任すると皆川商会からお祝い金としてお金を受け取る事が慣例となっていたが、その額は数十万円程度とあまりに少額で、今更その慣例を告発するのはとても不自然であること。それよりも、その告発が過熱報道され、亀山内閣の誕生とともに始まった近衛エレクトロニクス社のAI導入もあまりにも迅速で、予めすでに用意されていたシナリオのようにみえること。AIの分野で、爆発的な利益を得てきたKE社はAIの安定的な性能を開発した直後から、安定的に利益を生む公共インフラにAIの導入を狙っていてたのは有名で、独占状態にあった皆川商会とはライバル関係にあったこと。そのような仮定に基づくと、K国の思想に反対する勢力による内部告発というよりは、AI導入を狙っていたKE社による意図的な心象操作なのではないか、とういうものだった。
直人はこの不正にも『近衛』がからんできたことに、違和感を覚えた。
自分の家族の事件でもエレクトロオプティカル社を買収したのは『近衛』だった。脳移植で非労働者に特異的に起こる脳機能障害も『近衛』が関わっている。そしてこの一連の文部科学省の不祥事にも『近衛』の名前がでてきたのである。
直人は一回『近衛』についてさらに詳しく調べるべきなのではないかと思った。そして、さらなる情報を知っているであろうこの日野雅也という人物と直接話してみるべきではないのかと思うようになった。
「探して一回話を聞いてみるか...」
直人は「日野雅也」を再び検索し、日野雅也の社会保障番号からすべての個人情報を取得した。更に仮想世界で使われているアバターを特定する。
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