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8話 来訪者

 数日後、俺の家のソファにはアルテミスの姿があった。 アルテミスはゼウスに俺の事を報告し指示を仰いだところ、俺が調子に乗らぬよう監視せよと言われたらしい。 


 「というわけで暫くお世話になるよヒロユキ 」


 「は…… はあ。 よろしくお願いします 」


 苦笑いする俺にアルテミスは笑う。


 「ペルちゃんの旦那なんだから敬語なんていらないわ。 私のことは友達と思ってくれていいから 」


 なんて軽い女神なんだ、無茶言うな。 ふと彼女の目線が逸れてテーブルの上のDVDに留まった。


 「これ! 神々の追憶のアナザーストーリーじゃない! 」


 DVDのケースを手に取って彼女はプルプルと震えている。


 「女神が人間界の映画なんて見るの? 」


 「いいでしょ? 面白いんだもの。 続編が出るとは聞いていたけど…… 見たかったんだー! 」


 「そうだよな! 私もこれから見ようと思っていたところでな、楽しみで仕方ないのだ! 」


 ペルさんとアルテミスは手を取り合い、目をキラキラさせながら早く観たいと俺にせがんでくる。 仕方なくプレーヤーにディスクをセットし再生ボタンを押す。 二人はオープニングムービーから既に興奮状態だ。


 「アルテミスさんって人間界に詳しいんだね 」


 俺はキッチンで洗い物をしていたリーサに声をかける。


 「冥界は人間にとって死後の世界のようなものですが、天界はこちらと繋がりがあるようですからよく来られてるみたいですよ? それに加えて、アルテミス様はとても真面目な方ですけど実はミーハーです 」


 へぇーと俺が驚くとリーサはクスクスと笑った。


 「意外ですか? 」


 「アルテミスさんのことよりもペルさんと仲がいい方が意外だったかな。 冥府の女王と天界の女神とかって対立してるものだと思ってた 」


 「それはきっとギリシャ神話による人間界の先入観ですね。 冥界と天界って対立なんてしてませんし、三界の均衡を保つ為に協力しているくらいです。 私も業務でよく天界に行きますが皆さんよくしてくれますね。 個々の好き嫌いなんかはありますが神々同士も仲はいいですよ 」


 三界というのは天界、冥界、人間界のことで、人間界を間に挟むように天界と冥界が存在しているのだと言う。 人間界が天界と冥界を隔てる境界線のようなもので、両界の直接干渉を防いでいるんだそうだ。


 「お姉さまがハマってる映画のような、天界や冥界の戦争なんて私の知る限りはありません。 治安もこの日本程ではないけど安定してますよ 」


 そういう話を聞くと外国へ観光に行くような感覚で天界や冥界を覗いてみたくなる。 


 「あ、今ちょっと見てみたいとか思ってたりします? 」


 「いや、ただの観光ならいいけどハーデスさんやアルテミスさんみたいに勝負を持ちかけられても困るし 」


 リーサはそんな言い訳をする俺を見てケラケラと笑った。


 「旦那様ならゼウス様相手でも大丈夫だと思いますけど。 お姉さまやアルテミス様に許可を貰ってきましょうか? 」


 俺は両手を突き出していやいやと首を降る。 全能神ゼウスとケンカなんて冗談ではない。 リーサは慣れた手つきで手早くコーヒーを二つ淹れると、私も見てきますとペルさん達の元にパタパタと駆け寄っていった。 仕方がないので俺もDVD鑑賞に付き合おうかとリビングに向かおうとすると、ポケットのスマートフォンに着信が入る。 取り出してメールアプリを開くと矢崎からだ。


  “この間はお茶をどうもありがとう。 暇ならでいいんだけど、外でお話でもどうかな? ”


 絵文字や顔文字はなく簡素な文面だ。 話と言うのは恐らくペルさんのことだろう。 あまり気は進まないが、ペルさんが嫌な思いをしないで済むのなら話をしておくのも必要なのかもしれない。 俺が矢崎に時間と場所を聞く為に返信メールを打つと、送信後すぐに返信があった。


 「ペルさん、俺これからちょっと友達の所に行ってくるね。 リーサ、後はお願い 」


 映画に夢中な二人の女神と付き人に行先を伝え、俺は待ち合わせのカフェに行くことにした。

 




 全国展開をしているコーヒーの美味しいカフェ。 待ち合わせの十分前に到着して矢崎に連絡を入れてみたところ既に彼女はカフェの中にいると言う。 すぐに店内に入り店内を見渡すと彼女は席を立って手を振っていた。 カウンターでコーヒーではなくコーラを注文して急いで彼女の元に行く。


 「ごめん、待たせちゃったかな? 」


 「ううん、私いつもここで勉強してるから。 来てくれてありがと 」


 彼女の向かいの席に座ってとりあえずコーラを一口。


 「いや、気にしないで。 んで話っていうのは? 」


 彼女もコーヒーを一口。 なんだかあまり落ち着かない様子だ。


 「あの…… ペルセポネさんて凄い綺麗な人だよね。 あ、人じゃなくて神様か 」


 俺とは目を合わさずコーヒーカップを回している。 案の定その話題だよな…… 


 「無理に信じてもらおうとは思ってないけど 」


 「そ、そうじゃなくてね、受験勉強頑張ってたのにいきなり結婚なんてどうしちゃったのかなぁ…… って思って 」


 矢崎の目が泳いでいる…… 何を気にしているんだ?


 「ま、まあ人それぞれ出会いってあるよね…… 何言ってるんだろ私…… 」


 彼女は俯いて黙り込んでしまった。 会話が続かず、俺もどうしていいものかわからずに窓の外を眺める。


 「大学生活は順調? 」


 しまった…… 浪人中の俺がしていい質問じゃないことに言ってから気付く。 皮肉に取られたりしないだろうか…… 間が持たず、こういう雰囲気は苦手だ。


 「…… うん、それなりにね。 ねぇ、もう大学は諦めちゃったの? 」


 「諦めてないさ。 でも来年の受験で最後にするつもりだよ。 もう二十歳にもなるし、親にも迷惑かけられないから 」


 久しぶりにクラスメイトに会えたのになんか暗い話になってきた…… 帰ろうかな。


 「そっか。 何か力になれることあったら言ってね、出来ることなら何でも協力するから 」


 「ありがとう。 その時は頼むよ 」


 矢崎は顔を上げてニッコリ笑う。 この人、大学生になってより可愛くなったな……。 


 「あのね諏訪君 」


 矢崎が俺の名前を呼んだ途端、陽が陰ったかのように窓の外が暗くなる。 何事かと窓の外を見るとそこには逆光の中に仁王立ちしている大男が立っていた。


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