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1話 契約

 澄み渡る青い空。 頬を優しく撫でるような心地良い風。 庭先には真っ白なシーツを物干し竿に広げ、パンパンとシーツのシワを伸ばしている美人。 時折吹く強い風にシーツは煽られ彼女の体を包み込む。


「こんな感じでいいのか? 」


  綺麗に伸ばしたシーツを見渡し、彼女は難しい顔をしながら腰に手を当てて俺の方を振り向く。 俺が笑顔で2回頷いて見せると、彼女もまた笑顔になった。


「見様見真似でやってみたが…… 気持ちがいいものだな 」


  彼女の薄紫色の髪がそよ風に揺れる。 見ているだけで引き込まれてしまいそうな美貌の彼女は、あの冥府の女王『ペルセポネ』と名乗った。 彼女との出会いは3日前に遡る。




   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「私を呼び出したのはお前か? 」


 オカルト研の友達から暇潰しのネタにと貸してくれた小汚い辞書。 その中に書いてあった魔方陣のレプリカを書き終えると、突如眩い紫の光と共に、彼女はその魔方陣の上にゆっくりと姿を現したのだ。


「私はペルセポネ。 私を呼び出したのはお前かと聞いている 」


 ペルセポネと名乗った彼女は舞台のステージセットのようにゆっくりと魔方陣から出てきて……


  ゴン!


 案の定天井に頭をぶつけた。 その場にしゃがみこみ両手で頭を押さえて唸っている。 現実離れした信じられない光景なのだが、俺は笑いを堪えるのに必死だ。


「…… まぁいい。 お前の望みを聞こうか 」


「は? 」


 ああ、よく聞くこの手によくあるパターン。 一つだけ望みを叶えてやる代わりにお前の魂をよこせとか、そんなところだろうか。


「は? ではない。 お前は私をあそこから出してくれたからな。 一つだけ望みを叶えてやろうと言っているのだ。 なんでも良いぞ? 但し…… 」


 ほらきた。


「命を奪うことはダメだ。 人間界での生殺与奪は色々と面倒でな…… 大金持ちか? 冥界旅行か? それともこの世の王にでもなってみるか? 」


 なにやらスケールのデカイことを言っているが、天井に頭をぶつけて痛がっているような奴にそんなこと出来るのか?


「…… お前には望みはないのか? 」


 じっと黙っていると不安げな表情でペルセポネが聞いてきた。


「いや、色々考えてるからちょっと待っててくれ 」


「ちょっと待っててくれ……  それがお前の望みか? 」


 ペルセポネは突然パァっと明るい表情になる。 俺が白けた目を彼女に向けて首を横に振ると、彼女はブーッとむくれて腕組みをする。


 おいおい、ベタなお笑いのネタにもならないぞ…… 下手に言葉を発するとさっきみたいなロクでもない望みになってしまいそうなので俺は黙って考えることにする。 あんなネタを言うような輩に本当に望みを叶える力なんてあるのか? 超美人だけど。


「…… 望みじゃなくて質問なんだけど、本当に何でも望みを叶えてくれるのか? 」


「そう言っているだろう。 信用に足らぬか? 」


 彼女は俺の目の前に腕を伸ばしパチンと指を鳴らす。


   グラグラ……


 地震だ…… 彼女が起こしたかどうかはわからないがタイミングが良すぎる。


「この場を少しだけ震わせてみた。 少しは信用したか? 」


 透き通るような藍色の瞳が淡く光り、まるで魔法でも使ったかのような仕草に本物らしさを感じる。 ビビってテーブルにしがみ付いた俺の様子が可笑しかったのか、彼女はフフっと微笑んだ。


「さあ、望みを聞こう 」


 これは本物かもしれない…… 俺はソファに座ってじっくり黙って考える。


 世界がどうのなんてスケールのデカイことには正直興味がないし、お金や社会的な地位は欲しいがそんなものにこのチャンスは勿体無い。 うーん、決めかねる。


「…… まだなのか? 私も忙しいのだが 」


 彼女は壁に寄りかかったり、俺の目の前で右往左往したりテーブルに腰かけてみたり。 段々暇をもて余して本棚の雑誌を手に取り始めた。 望みを叶えないと帰れないのか?


「そろそろ飽きてきた…… 優柔不断だなお前は。 それとも本当に望みはないのか? 」


 拗ねた顔で俺を怨めしく見ている。 薄紫色の綺麗に纏められた髪、透き通るような藍色の瞳と白い肌。 スタイルは素晴らしく、肩まで露出したワインレッドのドレスがとてもよく似合っている。 こんな人が彼女ならビックリだろうな……


 ん? 彼女? 彼女…… 奥さん…… いいなそれ。


「決めた。 ペルセポネ、俺の嫁さんになってくれ 」


「いいだろう 」


 即座に答えた彼女の藍色の瞳が輝きを増す。 その輝きに耐えられず俺は腕で目を覆い目を瞑るが、まぶたを閉じても眩い光は止まることはない。 ふと光は消えて真っ暗な闇が支配する…… 俺はゆっくりと目を開けた。


 目の前には変わらず彼女がいるが、なぜか冷や汗をかいていた。


「…… 散々焦らされたせいで勢い余ってよく聞かなかったが…… お前の嫁だと?  」


「…… そうだけど 」


「他になかったのか? もっとこう…… 何かになりたいとか、叶えてハイ終わりとかそういうの 」


「なんでも良いって言ったじゃん  」


「いや、なんでも良いのだが、何故私の夫なんだ? 」


「だってペルさん超絶美人なんだもの。 彼女…… いや、奥さんになってくれたらいいなと思って 」


 彼女は呆気に取られてしばらくその場で固まっていたが、突然クスクスと笑い出す。


「…… まあいいだろう。 では、私はこれから何をすればいい? 嫁と言われても何をしていいのかわからないぞ 」


「そうだな…… とりあえず一緒に暮らしてもらおうかな 」



   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 そんなわけでペルさんはめでたく俺の奥さんになった。 『私にこんな望みを言う者は初めてだ』と彼女に大笑いされたが、神だろうが何だろうが彼女が俺の奥さんになった事には変わるまい。


「人間の嫁とはどういうものだ? 」


 神話の世界ではペルセポネは冥王ハーデスの嫁の筈だけど、そういう暮らしをしたことがないのか、奥さんや彼女とはどういうものなのかを聞かれた。 それを俺の価値観で説明するのに丸1日。 いい加減説明するのも疲れたので少し人間界の奥様方の様子を見ておいでと外に出して丸1日。 今日に至っては覚えてきたことを片っ端から実践している。


「この洗濯という作業が気に入ったぞ。 特にこの柔軟剤という液体の香り…… 好き 」


 彼女は真っ白なシーツに顔を埋めて大きく深呼吸する。 女王の品格と言うべきか、その姿はとても綺麗で……


 へ…… ふぇっくしょん!


 あ、結構豪快なんですね…… 前言撤回です。

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