魔物たちの憂鬱
初投稿です。楽しんでもらえたら幸いです。
今夜もまた此処で憂鬱が始まる
「なぁ、聞いてくれよ。最近召喚されたユウシャがチート過ぎてツラいんだけど…」
そう言いながら彼はエールを片手に語ってきた。
ここはとあるどこかの国にあるような居酒屋のような店のようなナニカ。周りを見渡すとどこかくたびれた様子の魔物たちがあちらこちらでエールを片手に愚痴を言いあったり慰めあったりしている。
「この前の勇者なんてレベルカンストしててさ、何でも女神様からチート貰った!って俺らをごみを捨てるかの様に倒しやがって」
彼はもう3杯目のエール瓶を空にしていた。
「最後に何言われたか分かるか?『所詮ゴブリンは雑魚だな』って言われたんだぜ?まじで殺そうと思ったよ…まぁ殺されたんだがな。あぁ、なんでこんな世界で生きてるんだろう。何回死んだってまたゴブリンとして生き返るからツラいんだけど…」
「わたちも、このまえ、さんぽしてたら、ゆうしやってひとに『キエロ』っていわれたらそのままからだがとけきえたことがあったよ、たたかいですらなかったよ…」
そうゼリー状のような物体から声が聞こえた。
「オマケによぉ、可愛い嬢ちゃんを蔓延らせやがって…見られた瞬間悲鳴しか言われないオレ様への当てつけかぁ!」
角と翼、そして尻尾をもつ生き物がそう叫んだ。彼のテーブルには既に空き瓶が4,5本転がっている。
「数の暴力で勝とうと100万人で一斉に挑んだんだがあいつ、涼しい顔で剣を一回振っただけでこちとら全滅だぜ?おかしいだろ。その上『ゴミが何人集まろうが所詮ゴミに変わりはないな』って言いやがって…」
「我々はただ穏やかに過ごしたいだけなんだ。ニンゲンに危害は一切加えてないし領土も最低限にしている。端っこの方で慎ましやかに生きてるだけなのに何故侵略されなきゃならんのだ。いや、侵略ではないな、ニンゲンの国で言うただの無差別殺人ではないか。我等魔物は死なない。いや死んでもまた生き返ってしまう。何故、神は我等にこの様な苦行を与えるのか。我等が何をしたというのか。神よ。答えておくれ…」
そう言って王冠を被った骸骨はそのまま寝てしまった。
その声を聴き皆顔が曇り始める。
何回転生したら違うキャラになれるのか
何回死んだらこの地獄を抜け出せるのか
何回生き返ったら…救われるのか。
どの魔物もそう考える。答えは出ない。「無い」という残酷な答えならとっくのとうに出ているが…
だからこそ、皆酒に逃げる。現実なんて、そんなものを直視してしまったら、きっと、狂ってしまうから…
「どれだけ頑張ったってどれだけ強くなったってあいつらは平気で嘲笑うかのように俺らを殺すんだ。もう…考えるのも、疲れたよ。」
そう言った彼は酔いつぶれたのか机に突っ伏して寝てしまった。
嗚呼、いつになったら、いつになったら、そんな魔物たちの憂鬱が晴れぬまま、
また朝日が昇っていく。
また、奴がヤッテくる。