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そうしてお姫様は、

意地悪な猫

作者: 東亭和子
掲載日:2017/03/15

 もう二度とこの世界に来る事はないだろう。

 落ちていく意識の中で私は考えた。

 白い兎に導かれて迷い込んだ世界は、すべてが狂っていた。

 でも私には魅力的だった。

 現実から遠い世界。

 いつも逃げたいと思っていたから、その世界は私にとって夢の世界だった。

 狂っているのは私だけではない。

 そう思うと安心できた。


 白い兎が私にささやく。

「ずっとこの世界にいればいい」

 それはとても甘い言葉。

 その言葉に体を委ねてしまえたら、どんなに楽だろうか。

「この世界で楽しく暮らそう」

 牙を見せて白い兎が笑う。

「さぁ、お茶会をしよう」

 狂った帽子屋が私のために紅茶を注いでいる。

 ああ、まるで夢のようだ。


「夢だよ」

 大きな猫がニヤリと笑って言う。

 その言葉に私の体は凍りつく。

 本当は分かっている、知っている。

 でも分かりたくない、知りたくない。

 今までそうやって逃げてきた。

 夢と意識した途端に世界が歪んだ。

 白い兎も、狂った帽子屋も、大きな猫も歪んだ。

 そうして私は落ちてゆく…

 夢から覚めるために。

 私の心には、体には、この世界の感触が残っているのに。


「夢だよ」

 また猫の声がした。

 なんて意地悪な猫だろう。

 私の夢を壊してしまうなんて!!

 怒りながら私は目覚めた。

「どうしたの?」

 驚いた顔をした姉が本から目を上げた。

「…夢を見ただけよ」

 そう、というと姉はまた本を読み始めた。


もっと夢の世界にいたかったのに。

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