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季節を動かす方法は  作者: 石山乃一
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トウジ・ユーズ・シーズン

季節は廻って春になった。雪は見る見るうちに低くなって、慌てて草花も芽吹きだした。私は家の前に残った雪を踏みしめながらこの前の事を思いだす。


あの後私たち…ハルとナツとトウジ王子も一緒に国王様の前に行き、そして秋の女王は自分がしたことを全て告白した。国王様はとてもお怒りになったのだけれど、ナツが

「私が秋の女王様を傷つけたのが悪いんです」

と言い出し、ハルは

「女王という立場なのに冷静に物事を確認せず逃げた自分が悪いのです」

と言い出した。私もつい国王様に言ってしまった。


「子供が中々できないのに親戚の人に子供はまだかと何度も言われるのが一番辛かったとお母さんは言ってたわ。国王様も秋の女王を追い詰めているのよ」


すると国王様は最初ムッとしたけど、段々と罪悪感に包まれた顔になって秋の女王に、

「そうなのか?私は知らぬうちにお前を追い詰めていたのか?」

と聞いた。秋の女王が静かにうなずくと、国王様は唇をかんで、しばらく居心地が悪そうにした後、すまなかったと深々と頭を下げた。


その後は拍子抜けするぐらいすんなりと物事は進んだ。


冬の女王には国王様とトウジ王子が事情を説明し、納得した冬の女王はハルとも和解した。


秋の女王の事は国王様も自分にも責任の一端があると言ったけど、国王様の名前を使って偽の手紙を書いた事や人の屋敷に弓を引いた事は許されないと、秋になるまで家から一歩も出ず、誰とも手紙のやりとりをしないようにと言われた。


ハルが季節の塔に入ったので、私も皆と分かれてナツの馬車に送られて村へと帰ったけど、別れる間際、ハルは泣きそうな顔になって私を抱きしめた。

「エリーザ、あなたが居なかったら私はまだ山の中を逃げ回っていてここには居なかったわ。本当にありがとう」

私もハルをギュっと抱きしめた。ハルはそのまま続けた。


「ねえエリーザ、さっき国王様に私とフクジュ王子の結婚式を来年の春に開きたいと言われたの。その時にあなたと、あなたの家族も出席できないかしら。ぜひ来てほしいのだけれど」

私は嬉しくなってその場で

「絶対参加します!」

とうなずいた。


私はその時の事を思いだしながらポカポカと暖かい家の前で、昨日届いたハルの結婚式の招待状を何度も見返した。

すると、村の入口から馬のひづめの音と馬車の車輪の音が近づいてきた。私が顔を向けると、雪の彫刻で作られたかのような馬車がゆっくりと近づいて来て私の目の前で止まる。

御者が戸を開けると、中からトウジ王子が現れたので私はビックリして立ち上がった。


「やあエリーザ。少しぶりだね」

トウジ王子は相変わらず私より年上のような口調で馬車から降りて来た。

「どうしたの?」

私が聞くと、トウジ王子は微笑みながら巻かれた手紙を広げて私の前にかざした。


『エリーザ

冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう、と言っていたのだが、褒美を取らせる前に君はとっくに村に帰ってしまったようだ。使いの者をそちらに送るので、何なりと君の望む物を言いたまえ。君には非常に感謝しているよ。

 シーズン国第217代国王 ジュウ・ニセク・シーズン』


私が読み終えると、トウジ王子は手紙を巻き戻し、私に渡した。

「その使者の役を国王様に頼んで僕が受け持ったんだ。なんなりと欲しい物を僕に言ってくれ」

「けど急に言われても困るわ」

「なんでもいいんだよ。お金でも、宝石でも、身分でも」


私はそう言われてもパッと欲しい物が浮かばなくて、周りをキョロキョロと見ると、ナツに馬車で送ってもらった時と同じように村人たちが好奇心いっぱいの顔で集まってきている。そしてあ、と思った。


「前に土砂崩れがあって、村の畑がつぶれてしまったの。国王様に訴えても誰も使者が来てくれなくてそのままなのよ。それを直してくれるかしら」

「君はそれでいいのかい?」

トウジ王子がそう言って私がうなずくと、トウジ王子は微笑んだ。


「わかった、国王様にしっかりと伝えておくよ。それと…君は本当にすごい。君はアキ様の心を和らげて改心させ、国王様の悪い所を指摘し反省させた。他の誰にもできない事を君はしてのけた。本当に君はすごいよ」

そう言いながらトウジ王子は私の顔を覗き込んだ。


「僕はもっと君と話がしたい。だからこれからたまにここに来てもいいだろうか?」

突然の申し出に、私はこの人は頭が良いはずなのに変な事を言うな、と思った。

「だって、こんな山の奥まで来るのは時間もかかるし遠いでしょう?」


私がそういうとトウジ王子は「分かってないなぁ」と苦笑して深いグレーの目で真っすぐに私を見た。

「僕は君に会いたいんだよ、エリーザ。嫌かい?」

その言葉に妙な気恥ずかしさを覚えた私はゆっくりと目を足元に逸らした。きっと顔が熱いのは春の陽気のせいなんだろう。


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