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季節を動かす方法は  作者: 石山乃一
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フュー・キサラギ・シーズン

「これが私たちの国を治めているシーズン国のお城?」

あまりにも大きく厳格な雰囲気のあるお城を、私はポカンと口を開けながら馬車の窓から眺めた。

その中にひときわ高くて雪や氷で覆われている塔が見える。あれが季節の塔で、中には冬の女王がいるんだろうか。


「私も入って大丈夫?関係ない人だって分かったら捕まったりしない?」

関係のない人がお城の中に入ると兵士に捕まる、という話を聞いたことがあるので二人に聞くと、ナツは口を開けて大笑いした。

「なにを言っているの、私たちと一緒にいるのに捕まるものですか」

それを聞いて私はホッとした。馬車はお城の中を進んでいき、季節の塔の前で止まった。馬車は本当に早くて、あっという間についてしまった。


そして私は塔の高さと、そして分厚い雪と氷に覆われた壁を見てさっきよりもあんぐりと口を開いた。

「すごいね、冬の時期の塔は初めて見るんだけど、いつもこんなに氷で覆われてるの?」

ナツが上を見上げながらハルに聞いた。


「いいえ、いつもはここまでじゃないんだけど…」

ハルもどこか驚いた顔で塔を見上げた。すると、塔の上からバキンと何かが割れるような音がしたから見上げると、女の子が窓から顔をのぞかせている。何かが割れたと思った音はどうやら窓を開けた音らしい。


その人は湖の氷のような淡く輝く水色の髪を揺らし、冬の曇り空のような深いグレーの瞳でこちらを見下ろしている。私より少し年上なんだと思うけど、ぐっと年上の女の人に見える。

「フュー、ごめんなさい遅くなったわ」

顔をのぞかせた女の子にハルはホッとした顔つきで手を伸ばすけど、女の子は恐怖に脅えた顔つきになって叫んだ。


「来ないで!それ以上ここに近寄らないで!いや、死にたくない!」

そしてそのまま窓は閉じられて窓がピキピキと音を立て凍りつく。私もハルもナツも驚いて三人で顔を見合わせた。

「待って、フュー・キサラギ・シーズン」

やっぱり、あの女の子が冬の女王様らしい。ハルが呼びかけるけど、中からは「来ないでぇ」と叫ぶ声が聞こえるだけだ。私たち三人は呆然と立っていたけど、ナツがハルに向かって聞いた。


「ハル、フューに何かしたの?」

「するわけないでしょう」

「死にたくないとか言ってたけど、どういうことなんだろう」


私がそう聞いても、二人は首をかしげるだけだ。するとギギ、と扉がきしんで開き始めた。

「おや、そこに居るのはハル様とナツ様ですか?」

ゆっくりと扉が開かれ、私たちは扉に目を向けた。

開け放たれた扉の向こうには、冬の女王が…。いや、冬の女王は上の階に居るし、目の前の子は髪の毛が短いし男の子の格好をしている。


「トウジ王子」

トウジ王子と呼ばれた子は背筋を伸ばして立っている。私と同じくらいの年齢だと思うけど、どこか大人びた雰囲気のある少年だ。


「ハル様、ナツ様お久しぶりでございます。そちらのお嬢ちゃんは初めまして。キサラギ家第一王子のトウジ・ユーズ・シーズンです。以後お見知りおきを」

トウジ王子はそう言って胸の前に手をかざし頭を下げた。同じ年齢に見える子にお嬢ちゃんと呼ばれて少しムッとなったけど、村で見たこともないうやうやしい挨拶に全てがどうでも良くなった。


「エリーザよ。よろしく」

「よろしくエリーザ」

王子は微笑んだけど、すぐに真顔になってハルとナツに向かって言った。

「姉様が申し訳ありません。ところでハル様、この手紙に見覚えはありませんか?」

と、王子が手紙をハルに渡した。ハルは驚いて目を見開いて叫んだ。

「国王様…から直接届いた手紙と同じ物だわ!だけど何で私がこれと同じ物をもらったと分かったの?」


「恐らくこの騒動は全て秋の女王の仕業です、ちょうど良い。今から向かおうとしていたので、連れて行ってください。お話は馬車の中でいたします」

ナツはそれを聞くと驚いた顔で身を強ばらせながらも

「分かった…乗って」

と馬車へと皆を促した。塔から遠ざかりお城の門を通り過ぎる馬車の中で、ハルは私の家族やナツにした話をトウジにまず話した。


「本当に秋の女王の仕業なの?」

ハルが一通り話終えた後に私が聞くと、深いグレーの瞳で私の顔を見ながらトウジ王子は答えた。

「そうだよ。この姉様に届いた手紙とハル様に届いたという手紙を見比べてごらん」


同じくらいの年齢のはずなのに、はるかに年上のような言い方で王子は私に手紙を見せてくる。冬の女王に届いた手紙の内容はハルがフューの命を狙っているという内容だった。確かに文字の形や跳ね、そして文章の雰囲気もどちらもよく似ている。


「もしかしてそれも直接フューに届いたの?」

ハルの問いかけにトウジ王子はうなずいた。

「ええ。本来なら国王様の手紙はまず父に届くはずですし、内容もおかしいので最初は姉様も気にしていなかったのですが、このような手紙が度々届くので次第に姉様が脅えてしまいまして。それで僕は失礼を承知で昨日国王様に直接手紙を出し、今朝返事が来ました」

王子は皆に見えるように国王様からの手紙を広げた。


『トウジ・キサラギ・シーズン

まさか本気で私がそのような手紙を送ったと思っているのか?私は先代国王たちに誓ってそのような手紙は出していない。それにハルがフューの命を狙っているなどの話も聞いたことが無い。ただ、誰かが私の名前を勝手に使い、嘘をばら撒いていることは分かった。これから調査をさせることにしよう。報告に感謝する。

 シーズン国第217代国王 ジュウ・ニセク・シーズン』


その手紙の文字は大きさも形もさっきの文字より大きく、がっちりとした印象を受ける。それに文体も男らしく要点だけ書かれているようだ。


「実は最初の一通目の時から秋の女王…アキ様が怪しいのではないかと思っていたのです」

「どうして?」

私が聞くと、王子は私に目を向けた。


「最初の一通が届いた時から、この便せんはシモツキ家が特別に作らせている紙ではないかと思ったんだ。以前そのような話を聞いてたからね。従者に調べさせたら、確かにシモツキ家の者のみが使う紙だった。それから母様に無理を言ってアキ様からの手紙を見せて欲しいと頼んで見せてもらうと、二つとも全く同じ文字だった。怪しいと思うだろう?そこで僕は塔を抜け出し、シモツキ家に行き家の中を調べたんだ。アキ様には塔の中に閉じこもるのが嫌になったと駄々っ子のような事を言ってね。そうしたら姉様やハル様に届いたのと同じ便せんと、執事の部屋からフクジュ王子の手紙が大量に出てきた」


「じゃあトウジが庭に手紙を?」

ハルが前のめり気味に一言いうと、王子は申し訳なさそうに微笑んだ。


「本当は直接届けたかったのですが、そこまですると季節の塔を抜け出してあちこちに行ったのが親にも国王様にもばれて怒られると思いましたので。次の日、庭先に置いた手紙は回収されたか従者に様子を見に行かせたところ、シモツキ家の腕章をつけた弓使いが木の上からハル様の屋敷に矢を射って去っていく所を目撃したのです。ハル様は中々塔にも来られないし、そのうちに行方不明と聞いたので心配しました」


ハルはまた申し訳なさそうな顔になり、頭を下げて「心配かけてごめんなさい」と謝った。

「だけど、どうしてアキ様はそんなことを…あんなに私たちの事を自分の子供の様に可愛がってくださっていたのに」

ハルがどこか悲し気な顔で言うと、王子は肩をすくめて

「分かりませんが…まずハル様はアキ様と会わない方がいいでしょう」

と答えた。


ふと私がナツの顔を見ると、ナツは強ばった表情をして口を引き結んで黙り込んでいた。思えばさっきから一言も口をきいていない。

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