ふわふわウサギちゃんの一生
ふわふわウサギちゃんは真綿の集まりであるかのようなふっわふわでもっふもっふのまっしろい毛につつまれています。仲間のウサギちゃんからは「ふわウサ」と呼ばれています。
ある日、ふわウサちゃんは世界を旅することに決めました。大好きなキャロットを二本と、ちょっと苦手なキャベツの葉を一枚、ももいろのリュックに詰めました。それから、おきにいりのはなうさちゃんストラップを、リュックのファスナーにていねいにくくりつけました。
「いってきます」
ふわウサちゃんは、友達のぴんくちゃんとゆりもちゃんに見送られて、ウサギノ森を抜け、シャーロッド街道へ足を踏みいれまし た。
シャーロッド街道は、まっすぐ進むと、王都リディディアに至ります。せっかくなので、街道のまわりの景色を見ながらゆっくり と、だいすきな鼻歌を歌って、ぴょんぴょこ歩くことにしました。
「はなうさ はなうさああァァ
わたしは ピンクはなうさ
ぼくは アオうさ
わたしは キイロの うたうたうはなうさ
ぼくは 剣つかい ブルーのアオうさあああ」
ふわウサは、きもちよく、歌のリズムにあわせて、ウサギノ森のアイドルはなうさの、「わたしは はなうさ」のメロディーラインに体を揺らせていました。
すると、タヌキのぽんポコりンが、街道わきの繁みから「ぴょこぽっ」と飛び出して、ふわウサに声をかけます。
「こんにちは、ウサギさん。ウサギさんは、どこへ行くぽこ?」
「ああ、タヌキさん。こんにちは。あのね、わたし、旅をしているの」
「旅?」
「そう、旅よ。旅をして、わたしは王都リディディアに行くの」
「王都っ!? ぽこぽこっ?!」
とたんに、タヌキのぽんポコりンはぽこっ とおなかをふくらま せ、左右のヒゲをぴんっとはりました。
「いいおなかね」
ふわウサは、タヌキのやわらかな腹をつんつん つついて、それからおもむろにてのひらでなでます。
ぽんポコりンはひょいっとその場を飛びのいて、
「ちょ、ちょっと?! ウサギさん、王都っていうのは、ニンゲンがいいっぱい いるところだよ、死んじゃうよ焼いて喰われるポコっ」
「え、ええっ? それは困るわ。わたし、旅をしたいんですもの」
ふわウサは、ぽんポコりンの話にびっくりして目をまんまるくしました。いままで、ニンゲンと云えばたまにウサギノ森へやって来る、猟師しかいないと思っていたのです。
ぽんポコりンは、ふうっと息を吐いて、にこっと笑います。
「旅をするならまず、ぽこぽこの村へ来なよ、タヌキノ村は、もうすぐ近くだよ。ぽこぽこが案内するよ」
「うん……。そうしたいのはヤマヤマだけど、タヌキさんは何か用があってここへ来たんじゃないの? いいの?」
タヌキさんは力なくフッと笑って、ヒゲをひょんなりと曲げて、
「ああ、それならぽこぽこはただ散歩に来ただけ ぽこ。今日はおそらがきれいだから、みどりの風を浴びに来たぽこ」
ふわウサには、タヌキさんがすこし悲しげに見えるのが不思議でした。
「ふうん。なんかあなた、あったの? ろまんちっくなだけかしら?」
「ろ、ろまんちっくぅ……?!」
急に、ぽんポコりンは顔じゅう まっかになって、またおなかをぷくうっ とふくらませました。
ふわウサは、そんなぽんポコりンのおなかをつんつん、とつつきます。
「あ、そうだ。いいこと思いついた」
ふわウサはすっ とぽんポコりンのおなかをつつく手を止めて、
「タヌキさんも、旅に出ない?」
ぽんポコりンはおなかをしぼませると、
「ぽこぽこは王都には行かないっ」
「あら、そう? じゃあ、またね」
あっさりと、ふわウサはタヌキさんに手を振って、シャーロッド街道を歩き始めました。
王都リディディアに近づくと、ニンゲンの匂や声がだんだんと大きくなってきます。シャーロッド街道を往来するその足元をぴょんぴょんすり抜け、王都入り口の門をくぐります。
「うわあっ」
ふわウサちゃんは歓声をあげて、ぴょんぴょんキョロキョロ、耳と目を動かします。
「すごおいっ。ニンゲンがあふれてるわ!! わたしはウサギよ!ウサギはここにいるのよっ、ふわウサっ」
ぴょんぴょんぴょんっぴょこぴょょんっ と、ふわウサは道を走り出します。赤い実を売るくだもの屋、色とりどりの野菜をならべた八百屋にはニンジンもあります。
「ああっ ウサギいっ」
「きゃああああっ」
そのとき、小さな子どもがふわウサを見つけて追いかけて来ました。ふわウサはタヌキの忠告を思い出しますーー
「死んじゃうよ、焼いて喰われる」ーー
あのことばはほんとうだったのです!
ふわウサは以前目げきしたことのある、虎に追われたときのシカのように、ビュンビュン走って走って走ります。
大きな通りからわきの小道へ抜け、細い路地裏に入ると、もうニンゲンの追いかけてくる靴のパタパタという音も聞こえません。
「た、助かったあ……」
立てていた耳をふせると、はりつめていた気がゆるんで、おなかがグゥーッとなりました。そう云えばお昼もまだでした。背負ってきたももいろのリュックを降ろし、中からニンジンを出してカリカリ、食べます。夢中になって食べていたので、しのびよる足音に気付かなかったのでしょう、二本目に手を伸ばしかけ、ふと顔を上げると、
「わわっ」
二三人のニンゲンが、うす気味悪い笑みを浮かべ、ふわウサを眺めています。ぴょんぴょこ と逃げ出そうとすると、バアアアンと耳をつんざく音がしました。ふわウサはくたっ とその場にたおれこみました。
「うまそうだな、おい」
まだ硝煙をほそくなびかせたまま、銃をもった三四十の男がしたなめずりします。
「こりゃ毛皮も売れまっせ」
「つやと云い色と云い、まったく最高の毛並ですわな」
男たちの下卑た笑い声が路上にこだました、そのとき、
「そのウサギから離れろ!!」
ニンゲンたちを威嚇する声色が響きます。声のする方向には、茶色のマントを羽織った若者が、白い包みを抱えて立っています。
「ああ? 誰だ、てめえ」
「ただの、通りすがりだ。……ほらよ」
若者は、もっていた白い包みを男たちの方へ放り投げます。
「これで十分足りるだろ」
空中で回転し、ゆるんだ包みの口から、じゃらじゃらと銀貨が地面にこぼれ落ちます。
「もっていけ。……ただし、そのウサギは置いていけよ」
男たちは若者のことばを聞き終わらぬうち わっと銀貨に群がり、残らず銀貨を拾い集めます。若者はそれをいちべつして、たおれたウサギをていねいに抱えあげ、いずこかへと去っていきました。
男たちは、早速、その銀貨をもって、酒場へ行きました。思いがけず大金を得た、歓びにいつもより多くの祝杯をあげ、べろんべろんになるまで飲み尽くしました。そうして夜も更け、帰ろうとし て、あの白い包みを席に置いていくと、
「お客さん、待ちな」
酒場の主が鋭く呼びとめました。
「なんだ、てめえ。カネはちゃんと払っただろ」
「お客さんよ、ばかは言っちゃいけねえ。見ろ、これは何だ?」
「何だよ、うるせえな……ひっ」
それを見て、男たちは、ぎょっとしました。
「な、何だよ……し、知らねえよ、こんなの」
「クソっ、だましたなあいつ。だましたなあっあの野郎っ……!!」
そこには、白い包みの中には、葉っぱが詰められていました。大量の銀貨など、どこにも見当たりません。
「おいお客さん、カネはどこだよ、エッ?」
「まずいっ、ずらかれっ」
千鳥足でよろめきながら、大慌てで逃げていく男たちを追う、人びとの足音が聞こえてきました。
まっくらな夜のやみが、辺りに昏く満ちてきました。……
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