記憶閲覧終了
荘司郎が、口をぽっかりと開ける。
同じようにして見開いた目で、ディスプレイをぼうっと見つめる。
螺8B層苑躯呑@類が、自分の口周りの肉を拾い、元の部位に押し込んだ。
ぐにゃぐにゃと歪ませ、元通りの形になじませる。
何度か発音テストのようなものをして、ようやく意味の通る言葉を喋った。
「あたし、あなた、の、いもうとです」
ぐにゃりと周囲の景色が歪んで、それが直る頃には、私達は食卓に移動していた。
「ごめん。
もうこれしか残ってないんだ」
トーストを半分に裂いて、荘司郎はその片割れを螺8B層苑躯呑@類に差し出していた。
ふるふると腕の肉を震わせながら、螺8B層苑躯呑@類がそれを受け取り口へと運ぶ。
その時、安っぽい電子音が部屋の中に鳴り響いた。
荘司郎がそれを聞いて、にんまりと笑う。
「やっと来た!
多分おれが知らない、おれの親せきのうちの誰かだ。
きっと助けに来てくれたんだ!」
よろめきながらも荘司郎は、リビングを飛び出し廊下を真っ直ぐに走っていく。
私は慌てて荘司郎を追いかける。
荘司郎が玄関の鍵を開けた。
扉が奥へと傾く。
その奥には、ゴムのような材質の服を着て、顔全体を覆うような形のマスクを被った人間が、十人以上控えていた。
「は?
え?
おまえら、誰だよ?」
長靴を脱がずに、土足のままで怪しい人間達が廊下を踏みにじる。
荘司郎は、邪魔だと言われんばかりに、先頭の人間に廊下の隅へと追いやられた。
動かず、動けず、座り込んだままの荘司郎。
彼、もしくは彼女達は、全員真っ直ぐにリビングの中に入り、暫くすると螺8B層苑躯呑@類を抱えて戻ってきた。
ハッとして、荘司郎が集団に問い掛ける。
「お前ら、そいつをどうするつもりだ?
おれの妹を、どこにつれてくんだ」
しかし、まるで荘司郎の声が聞こえていないかのように、いやひょっとしたら本当に聞こえていないのかもしれないが、彼もしくは彼女達は全く歩調を緩めず過ぎ去って行った。
後には一人ぼっちの荘司郎だけが残っていた。
「おれを、一人に、しないでくれよ」
荘司郎の記憶プールとのコネクトが切れた。




