表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dead! Dead!! Dead!!!  作者: quklop
第三者による追記
95/98

潜入開始

結局花菱は荘司郎の問いには答えなかった。

これ以上は無駄だと思ったのか、荘司郎はあまり追求をすることもなく、いやに素直な調子で本来の寝室に案内された。

香織がうずくまっている方ではない、孤独な寝室だ。


香織のことは、花菱が責任を持ってなんとかするそうだ。

泣かせた本人が、まるで母親のように子供の頭を撫でる様は、出来の悪い演劇を見ているようで滑稽だ。


寝室に入ると、ふかふかの絨毯がまあまあ豪奢な雰囲気を醸し出していた。

壁に汚れも見当たらず、比較的新しい印象を受ける。


>なんか向こうよりもよっぽど豪華に見えるね。


扉を閉めて、荘司郎が肉声で応える。


「多分向こうは、この家が焼かれる前からあった部屋だ。

今も昔もあの部屋で、あいつは花菱に寝かしつけられてるんだろ」


>なるほど。

>そう思う根拠は?


「特に無い」


確かにあの部屋は今のこの屋敷とは、作りというか、カラーが違うような印象を受けた。

香織があの部屋を選んで寝室にしている理由は、なんとなく予想がつかなくもないが、それだとなんだか、あの女にしては可愛らしすぎる気がする。


少し趣旨を変えよう。


>あの女のことが……好き?


ブフォッという変な音と共に、荘司郎の口から魂のようなものが吹き出た。


「……う、うるさいし、めんどくさい奴だと思う」


少年だなぁ。

何か、暖かい気持ちに浸ることができた。


荘司郎がベッドにドスンと潜り込む。


>……誰とは言ってないよ。


「うるせえ。

もう寝る」


この屋敷に連れてこられてから時計を見ていないが、なんとなく相当遅い時間だということはわかる。


>うん、おやすみ。


子守歌でも歌ってあげようかとか何とか言って、荘司郎をからかうのも面白いような気がしたが、明日に障るといけない。

私は荘司郎との感覚接続を全てシャットダウンした。


そして荘司郎の記憶領域に、全ての接続子を繋いだ。

この世界の人間データは、睡眠中に記憶領域の情報をリフレッシュする。

その際に情報の取捨選択が行われ、睡眠するまでにアクセス回数が多かった出来事に関連した情報は、大容量の記憶プールに送信される。

そして残りは記憶領域に取り残され、記憶領域のリフレッシュによって消滅するのだ。


今の私が必要としているのは、今日の記憶ではない。

荘司郎が作られたその瞬間から、ずっと記憶プールに存在している設定上の記憶だ。


記憶領域から最初のデータが送信されるのを感じとった。

私は慌てて、私の一部を切り離し、そのデータに乗せて記憶プールへと侵入させる。

程なくして作戦は成功した。


ラハチビイソウエンクノアトルイ。

花菱は明らかに日本語の発音で、そんな単語を口にした。

aeida語ではなく、はっきりとした日本語。

何らかの異国の単語を日本読みしている可能性はあるが、どちらにせよ私が荘司郎に寄生した際に読み取れなかった、荘司郎の記憶について解明する糸口になるかもしれない。


小さくなった私に検索システムを起動させる。

さて、プログラムとしての本領発揮だ。

ラハチビイソウエンクノアトルイと読める、アルファベットを含む日本文字を、総当りで入力していく。

たっぷり3秒かけて、ようやく結果が返ってきた。


螺8B層苑躯呑@類。

私は本気で私を疑った。

なんだそれは?

なんらかのシステム不良なのではないか?

しかし、検索結果が、この文字で返ってくる以上、そのデータを閲覧しないわけにはいない。



…・・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  ・  ・  ・    ・



私は薄暗い部屋の中にいた。

自分の腕を動かしてみる。

正常に動く。

手を上げてまじまじとそれを観察してみる。

荘司郎の手より少し大きいが、滑らかな曲線をしていて、そして肌が非常に細やかだ。

紛れもなく、これは私の体だった。


「……あ…あ、あー。

うん。

声帯も異常なし」


私の中の理想を体現した私の声。

いい感じにお姉さんっぽい。

自分が発音した声が自分の耳に入る。

ただそれだけのことが楽しくて仕方がなかった。


「これより第三者観察プログラムackimnethは、極秘潜入任務を開始する!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ