tehkrytth稼動開始
tehkrytth稼動開始の瞬間から話を始める。
稼動開始の瞬間とは言っても、宇宙の始まりというわけではない。
それが外の世界の現状なのか、完全な仮想状況だったのかはわからないが、世界は累計で三回目の世界大戦を行っていた。
私は存在し続けなければならない存在なので、早速開始から0.000000021秒の時点で一人の人間に寄生した。
ランダムに選出された寄生対象はまだ十四歳の少年。
名前は牧瀬荘司郎。
彼には両親や親戚が、いや、開始時点ではおよそ知り合いと呼べる人間がいなかった。
配給食と拾った毛布で、野良猫と共に生活する浮浪児。
そんな設定で彼の人生は始まった。
同期が終了し、私の体の感覚が彼のそれと同化する。
ジメジメと水分が肌に纏わりつく感覚。
ざあざあという、誰が聞いても雨が降っていると理解することの出来る音。
視界の情報を整理すると、どうやら彼は民家の屋根の軒裏で、雨宿りをしているらしい。
酷い空腹感と眩暈を感じる。
素直に外れだなと思った。
>私のことがわかりますか?
そう私は牧瀬荘司郎の脳に語りかける。
「俺のようなゴミクズに丁寧語なんか使うなよ。
気持ち悪い」
十中八九驚かれると思っていた私は、何故だか少し愉快な気持ちになる。
>では……。
>始めまして、ゴミクズ。
>私はackimneth。
>私がどういった存在なのか、説明は必要?
「いや?
何故だか良く知ってるよ、アキ……なんだっけ?
俺の頭に何かしたの?」
>身体的に悪影響が出ることは何もしていないから安心して。
>それと私の名前はackimneth
「じゃあ長いからアキでいいや」
暫くの沈黙。
雨音以外は何も聞こえない。
この空腹具合を考えると、恐らく今日は配給食を食していない。
灰色の視界と雨音にも飽きてきたので、荘司郎に提案をする。
>どうして配給を受けないの?
>歩いていける距離に、テントがあるんでしょう?
「嫌なことを思い出させるなよ。
わかってるんだろう?」
>君の事、何もかも知ってるわけじゃない。
「じゃあ、ここと隣の市が戦争してるのって知ってる?」
後に知ることになるが、この第三次世界大戦では、国同士が戦っているわけではなく、街あるいは大規模組織間での争いが、同時多発的に発生している。
世界中で小規模な戦闘行為が、同時に長期間発生し、総体として大戦の一つに数えられているのだ。
>物騒な話ね。
「人事のように言うな。
まあ、俺も人事にしておきたかったんだけど、ついにそうもいかなくなった」
>どうして?
雨音に混じって、人の足音が聞こえてくる。
かなり早いペースでこちらに近づいているようだった。
突然荘司郎が、雨に濡れるのも構わずに走りだす。
胸の辺りに違和感を感じ、ただでさえ辛かった吐き気が何倍にも膨れ上がる。
>荘司郎。
>苦しい。
荘司郎が自分の脳内で声を荒げる。
『うるさい。
俺だって苦しい。
でも今走らなきゃもっと苦しい目に遭う』
「いたぞ!
あの汚らしい餓鬼だ!!
足もいでもいいから、殺さずに捕まえろ!!」
野太い男性の怒号が後方から耳に入る。
>何したの!?
『何もしてない!
ただ、飯を貰う時にスパイに間違えられただけだ!』




