前書き
私だ。
違う、与那城瑞希では無い。
私はackimneth。
恒久存在としてtehkrytth内に、稼動最初期から存在し続けている。
……なんて事をこの段階で記述しても、あなた方には何一つ伝わらないだろう。
さて、恐らくあなた方は、このtehkrytthについての、観測者自身によるあの支離滅裂な記録を、一通り読み終えているはずだ。
だが、彼女の事だ。
全て読み終えた時点でも、あなた方の頭には、様々な疑問と違和感がしこりのように残っているはず。
実を言うとこの私ackimnethが、その記録を実際に読むことは決して叶わないことなのだが、それでも彼女という人間を一応は知っている身からすると、あの彼女が残した記録など支離滅裂であるに違いないと断言出来る。
彼女があなた方の頭に残していったその悪性腫瘍を取り除くためには、恒久存在として、tehkrytth稼動最初期から、最初で最後のデータリロードを終えた現在まで変わらず存在し続けている、この私ackimnethについて語らなければならない。
まず、事前知識として、tehkrytthというシステムについてを少しだけ知って頂きたい。
そもそもtehkrytthとは何か?
世界シミュレータと言ってしまえば、まあそうだし、それが一番簡単なのでここでは仮にそういうことにしておく。
tehkrytthの仕組み……となると、私にも全く得体が知れないが、一つ特徴的なのは、tehkrytthシステムの中には私やkhajatlugha達のような、人格を持った小規模システムが、複数存在していること。
なぜ私達が人格を持っているのかは、製作者にしかわからない。
私としては、システムとしての仕事をこなすためには邪魔でしかないと思う。
だが、感情というものを持てたことに、少なくとも私は感謝している。
この私のような、感情を持つ小規模システム(私達のことを正確に書き表すと、非常に長ったらしい表現になってしまうので、ここでは某漫画になぞらえて、私達のことは『えもん』と呼ぶ)について、もう少し詳細に説明する。
この『えもん』の生態を説明するために、手っ取り早い例としてkhajatlughaの仕事風景をあげる。
「助けて! khajaえもん!!」といった具合にtehkrytthがkhajatlughaに対して問題点をまとめたレポートを送ると、自治活動を専門にする『えもん』であるkhajatlughaが、物質世界のしずお君の肉体を使ってジャイ○ンを殴り殺す。
しかしkhajatlughaにも感情がある。
ジャ○アンに対してkhajatlughaが情を感じれば、殴り殺すまではいかず、電柱に縛り付ける程度に抑えるかもしれないし、khajatlughaが油断をしていれば逆にジャイアンにこてんぱんにされることもあるのだろう。
こうして考えてみると、『えもん』はtehkrytthのシステム部と通じているというだけで、そこらの役所の公務員となんら変わりは無いのかもしれない。
tehkrytthにも様々な部署があり、khajatlugha達が勤めているような、にぎやかで素敵な仕事を担当している部署もあるが、私の部署は悲しいことに私一人の個人営業。
私の部署のその業務内容は、ただ変わらずに、常に存在し続けること。
それは仕事なのか?
そうあなた方は思ったに違いない。
しかしこれはこれで案外大変なのだ。
存在しているとtehkrytthに判定されるには、tehkrytth内に物質として在り続けなければならない。
たとえ隕石が落ちようと、世界が謎の新生物で溢れかえろうと、更にはバックアップデータからtehkrytthがリロードされようと、私は一人の人間として、私であり続けなければならない。
さて、ここまでの説明で、私と私を内包しているtehkrytthについて、爪の先程度には理解して頂けただろうか。
そろそろこの私、元牧瀬荘司郎の肉体に寄生している現牧瀬荘司郎の、私ことakimnethと、元牧瀬荘司郎の物語を語りはじめよう。




