吐いたのだが。
荘司郎に銃口を突きつけた男が、距離をとって射撃体勢に入る。
その男の背後に、ジャックがヌウッと聳え立った。
「ッムン!」
ジャックは頭部を鋭利に尖らせ、光の速さで頭突きを繰り出した。
ぽっかりと開かれた荘司郎の口の中に、男の血がかかる。
「やはり、咄嗟に体を透けさせることは出来ないようですね」
おうえええ!
体を伏せて、荘司郎は口の中身を全て床にぶちまけた。
「流石です、ジャックさん!」
「めぷるさん、それよりも後方を……」
楓の後ろに、スタンガンを持った男が忍び寄る。
男に向かって麗華が銃弾をばら撒いた。
「………やっぱり異常」
上半身を後ろにずらして、男が銃弾を全てかわす。
男が攻撃の対象を変更する。
腰のベルトからリボルバー式拳銃を抜いて、安全装置をカチリと外した。
その隙に、楓は麗華に覆いかぶさるようにして、射線上を遮る。
「………え?」
男と麗華の動きが止まった。
「やっぱり、私は殺しちゃいけないことになってるのね」
その隙を逃さず、ジャックが首を刈り取る。
しかし、鎌と化したジャックの腕は、肉を通り過ぎてコンクリートの壁に傷をつけた。
男は雰囲気だけでニヤリと笑う。
鋭い踏み込み。
右手に拳銃と左手にスタンガン。
男は左手を楓のうなじに、右手をその奥に回りこませ麗華のこめかみに突きつけた。
その男以外の、その場にいる全生物が目をつむる。
しかし、いつまで経っても血は流れなかった。
楓が薄く目を開ける。
その視界の中に、男の姿は無かった。
「ふ、ふふふ」
痙攣に近い動作をしながら、楓が小さく笑う。
ジャックが安堵の溜め息を吐いた。
「消え……ましたね。
良くわかりませんが、なんとも好都合です。
おい、そこの少年」
それが元はジャックであることには気がつかずに、荘司郎がビクリと返事をする。
「は、はい。
げほ、あの、先ほどは助けて頂き、っていうか、なんでゾンビが、というか、麗華?」
「長話は無用。
最悪死にますよ。
それより、君は与那城伯瑛という男の居場所を知っているのでは?」
「あ、えっと、それは少し言いたくないのだが……」
突然麗華がスッと立ち上がる。
荘司郎に対するいらつきも忘れて、ジャックは麗華に目を奪われた。
「………さっき、あいつ、『終わった』って」
荘司郎が、その言葉の意味を理解する。
「やっぱり、教える。
ついてきてくれないか?」




