途方に暮れているのだが。
楓達が研究所のエントランスへと辿り着いた頃、A太は研究所の最上階にある果てしなく長い廊下を一人で歩いていた。
「ちょっと長すぎやしませんかねぇ」
「僕が長く作ったのさ。
直ぐにラスボスの下へたどり着いてしまったら興醒めだろう?」
声の主は、与那城伯瑛だった。
まるで少年のような輝きを放つ目が、A太の顔を覗き込む。
「えっと、始めまして」
「そんな言葉は要らないよ。
僕は君のおじいちゃんなんだからさ」
「誰のせいでこんな言葉を言わされているのやら」
「あっは!
そういや君は僕の事を忘れているんだった。
失敬失敬」
「人の体好きに弄くり回しておいて、罪悪感とかないの?」
「無いね。
君からしたら、そんなことされた記憶なんてないんだから」
「まあ、僕もどうでもいいんだけど」
A太が立ち止まる。
「でも、一つどうでも良くは無いことがある」
「なんだい?
お祖父ちゃんになんでも言ってごらん。
世界の半分くらいならあげられるよ」
秒速50メートルを超える速さで踏み込み、A太はそれに負けないくらいの速さで拳を振り上げた。
「僕のお祖父ちゃんぶるな。
この変態サイコ野郎」
振り下ろされたA太の拳は、伯瑛の体をすり抜け研究所の壁に穴を開けた。
「最近の若者はキレやすいなんて、良くテレビで言われてるけど、それは確かなんだよね。
容量削減の一環で大脳新皮質に当たる部分が僅かに削られていってるから」
A太は伯瑛の言葉には耳を傾けず、拳を壁から引き抜いて、また廊下の奥へと歩き始める。
「母さんを傷つけてはいないだろうな?」
いるんだろうなとA太は思う。
「アレは君の母さんじゃないよ。
死体さ。
試験管の外にはみ出してる死体だ」
「どういう意味?」
「これからわかる」
伯瑛は廊下の廊下の奥に唐突に現れたカーテンを開く。
清潔なベッドと、その上に眠っているかのように横たわる瑞希、そして椅子に座って途方にくれている荘司郎があらわれた。




