続 ジャックされそうです。
ジャックと名乗ったゾンビの手の中で、麗花が必死にもがく。
今一事態が飲み込めていないA太にも、これが緊急事態であるということは伝わった。
A太はゴクリと生唾を飲み込み口を開く。
「取り敢えずお茶でも如何ですか?」
伝わった……のだろうか?
「おや、宜しいのですか。
それでは、お邪魔してしまいましょうか」
ジャックの方も大概である。
ジャックがスリッパを履く丁度その時、
「麗花あぁぁっ!」
バースが機関銃を抱えて玄関に突撃する。
バララララッ!
大量にばら撒かれた銃弾は、そのまま直進すれば一発も外れる事も無くジャックに直撃するはずだった。
ジャックは長く伸びた爪で、機関銃の銃弾を一発残らず切り落とした。
弾いたのではない。
全ての銃弾を中心部分で正確に二分したのである!
絶句するバース。
何事かと廊下に顔を覗かせる子供達を、芽依が辛うじて引き止めた。
「さて、少々邪魔が入りましたが、お茶を頂けるということですので、リビングの方に上がらせて頂きますね」
片手で麗花の首を掴みながら、まるでただの図々しい客であるかのように、ジャックはリビングの長テーブルに着く。
A太はバースの服の袖を引っ張った。
「コップはどこですか?」
「な、何のつもりだい瑛太君!?」
「いいから、コップを!」
「……こっちだ」
ジャックから目を離さないようにしながら、バースは瑛太をキッチンに案内する。
バースは震える手で棚からコップを取り出し、A太に手渡した。
背伸びをして、A太はバースの耳元に口を寄せる。
「バースさん。
ちょっとあいつの視界を遮ってもらってもいいですか?
こう、覆い被さる感じで」
何も言わずにバースはA太の後ろに立つ。
バースの巨体があってこその作戦だ。
A太はさっきまで生首お手玉に使っていた肉切り包丁を取り出すと、躊躇いなく手首に深い傷を付けた。
びゅうと飛び出す血を、コップの中に注ぎ込む。
「こんなもんかな」
コップの半分くらいまで血を注ぎ込むと、A太は手首をもう片方の手で塞いだ。
傷がみるみるうちに塞がる。
「その、トマトジュースしか無かったんです。
お口に合えばいいんですけど」
A太はしれっと、自分の血液をジャックに手渡す。
「いえいえ、私は好きですよ、トマトジュース。
何より色が素敵だ」
ジャックはA太が手首を抑えている事は気にも止めずに、血液を一気に飲み干した。
「んん、んまい!」
「バースさん、今です!!」
「うおおおおおっ!!」
バースは機関銃を乱射する。
その銃口はA太に向けられていた。
改めて説明しよう!
A太は死んで生き返る際に、自分の体のパーツを全て、最も肉体が多く残っている本体に吸い込む。
その際の移動エネルギーは莫大で、既に野良ゾンビとの戦いで実証されているように、食われた肉が食った方の腹を突き破る勢いだ。
つまり今回は、ジャックの腹の中に入った血液が、A太がバースに殺されることによってジャックの腹を突き破るという寸法だ!
「グフ…」
ジャックがえづく。
A太は薄い意識の中で勝利を確信した。
ジャックの腹がA太の方向に向かって激しく伸びる。
しかし、伸びるだけで千切れはしなかった。
ジャックは自らの口の中に指を入れて引っ掻き回す。
「おえぇ〜い」
口から吹き出した血液が、勢い良くA太の体に戻った。
「ふう。
とんでもない物を頂いてしまいましたね。
少々不快です」