形態変化しました。
『瑛太! 瑛太!! 瑛太!!!』
突然A太の耳元から鼓膜に麗華の絶叫が響き渡る。
「ど、どうしたのさ?
いつもの変な間すら忘れてるよ」
『………今、0.028秒間の間、瑛太、死んでた』
「アレそんなに短かったんだ」
『そういう問題じゃない!!』
A太が耳からイヤホンを引っこ抜く。
「死んで欲しくないって?
それは願望であって、強制するものでは無いんだよ。
僕は死ぬべき時に死ぬさ。
あんまり死にたくないけど」
A太が、適当に研究所の一階の窓ガラスを、松原に渡された自動式拳銃のグリップで割って壊す。
警報装置がけたたましく鳴り響いた。
周辺の住人がようやく騒ぎに気がついて、何事かと身を乗り出す。
A太は窓ガラスの奥には入らず、ビルの辺に沿って走る。
角の奥に入ると、A太は助走をつけて二階と一階の間に渡されたパイプに飛びついた。
「こんな映画もあったっけな。
なんだっけ、ヤマカジ?」
腕の力でA太はパイプの上に体を運ぼうとするが、半分も上がらずに力尽きる。
「クソ」
A太は、今度は靴の底をビルの壁に着けて、足に力をこめる。
その時A太のふくらはぎに接合されたジャックの足が、A太の神経と完全な接合を果たした。
「へ!?」
ジャックの足が細胞レベルで形を変える。
肥大化し靴を破った、もはや足とは呼べないそれの底面には、壁に対して骨を針のように打ち込む機構と、それを支えるキャタピラが出来上がっていた。
ガスリと壁に骨が打ち込まれる。
あまりの驚きに、A太はパイプから手を離した。
「ああああああ!!」
時計の針のようにジャックの足のつまさきを中心にして、ぐるりと頭頂部を地面に向けるA太。
「あ……いける?」
そのままの体制で、A太はキャタピラを回転させる。
時速40km/h程で、奇妙な体制のままA太はビルの壁面を登る。
次々に骨を壁に突き刺し、壁面の形状に合わせてスライムのように形状を変えながら高速駆動するジャックの足。
「はは、ははは、ハーッハッハッハ!」
思わず高笑いするA太。
声が収まる頃には、A太はビルの屋上に立っていた。
その頃研究所の正面入り口の前では、銃を担いだ者達が、仲間のうち二名の姿が見当たらないことに気がついた。
ゾンビ達が撒き散らした血痕についた足跡、その中にある二組のものを辿る男達。
行き着いた研究所の裏口近くにて、男達は研究所の窓が割られているのを発見する。
A太が屋上にいることは露知らず、男達は窓から研究所へと侵入する。
その様子を何事かと眺める人々。
「あのぉ、アバカンっぽいライフル担いだ怪しい集団が、窓割って中に……はい、与那城研究所っす。
え? あの、不法侵入とか、器物損害とか……え? ああ、そうですね。
調査団ですもんね。
なんで忘れてたんだろ?」
野次馬達はその瞬間、皆揃って自らの住処へと足を向けた。




