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Dead! Dead!! Dead!!!  作者: quklop
観測者による主観的観測記録
68/98

全部消えました。

バースがゆっくりと立ち上がる。


「ああ、俺もあきらめがついたよ。

俺は死んだ。

俺達は死んだ。

だのにここにいられることが異常だったんだ。

そりゃそうだ、普通は死んだら……死ぬんだからな」


バースがA太の方へと歩み寄る。


「バースさ……」


しかしその脇を素通りして、リビングのドアを開け放った。


「付いて来てくれ。

芽衣がまだ寝ている」


廊下を進んで、赤黒い染みの手前でバースが立ち止まる。


「なんだ? 

これは」

「うちの母親です。

いや、本当は親じゃないんだけれど」


バースはA太に目配せすると、突然壁を殴った。

けたたましい音を立てて、人間が一人通れるくらいの穴が開く。

穴はアレクサンドリア邸の庭へと繋がっていた。


「俺は何も知らない。

だが、君が何を考えているのか、少しわかった気がしてね」


穴を両の手で押し広げて、バースでも通れるサイズにするとその外からA太に手招きをする。

しかし、バースはA太が穴を潜る前に、何処か違うところを見ながら手の動きを止める。

少しの間をおいて、バースは手を横に振った。


「……まだ、何も」


それ以上A太は、言葉を作ることが出来なかった。


A太は寝室の扉を開ける。

A太の記憶と比べて、かなり無機質な木造の空間が広がる。

中央のダブルベッドの隅、何かに怯えているかのように、芽衣が膝を抱きかかえて眠っていた。


ジリリリリ。


突然頭が乗っていないほうの枕の上に乗った、古めかしい目覚まし時計が音をたてる。


微かに芽衣が目を開く。

A太は目覚まし時計のベルを叩くハンマーを引きちぎった。

A太にはそれを止める方法がわからなかったのだ。


「おはよう」


明瞭な発音で、芽衣が少女のように問い掛ける。


「あの人は?」

「行きました」

「そう、死んだんだね」


にやりと笑って、初めて会った時のように、芽衣はA太に無邪気に抱きついた。


「この人だぁれ?」

「……あなたも狂って先延ばしにするつもりですか」


抱きついたまま、芽衣は表情を凍らせる。


「誰が狂っていた?」

「僕からすればみんな狂っていました。

けれどバースさんは狂うだけでなく違っていました」

「けれど、行ったんだね」

「はい」

「……つらい役目を押し付けちまったね」

「全くですよ」


芽衣の腕の力がいっそう強くなる。

A太を離すまいとするのではなく、A太にしがみつくことで何処かに吸い込まれないように、抽象的な抵抗をするかのように。


「……あたしに出来ること、まだ何かあるかい?」

「無いです。

精々お祈り……も、死人がすることでは無いですね」

「なんだい、冷たいな。

でも、きっと、その冷たさが今の瑛坊には必要なんだろうね。

何をしているのかは知らないけど。

ああ、そろそろだね」


芽衣が腕を離した。


「瑛坊。

ここにいてわかったことが一つある。

ここは良くない。

いいかい。

あまりこんなところに来ちゃいけないよ!」


芽衣のプログラム生成が止まり、芽衣の全てが停止する。

蓄積されたデータが端から破棄されていき、リサイクル処理され、一文字以下の存在に変わる。

芽衣の光反射情報が全て失われ、A太の目に映らなくなった。


芽衣が完全に消滅した瞬間、同時にアレクサンドリア邸も姿を消した。

A太が落ちる。

どこまでも落ちる。


コンクリートの地面の上で、A太は目を覚ました。


「……行かなきゃ」

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