嫌気がさしました。
「私、もうやだ!」
徐々に人が減っていくリビングの中、木葉が突然に声をあげる。
「だって、私じゃ無いんだもん。
私じゃない私なんて、ずっとここに残ってても仕方ないよ」
「木葉……」
木葉がさっきまで座っていた、年代物の椅子を蹴り飛ばす。
「木葉までこうなってしまえば、私が残る必要もありませんわね」
沙希は音を立てずに、飽くまで上品に椅子から立ち上がった。
「全く、はしたないですわよ」
「はしたなくもなるよ!
人生ってマジクソゲー!!」
A太に抱きついて涙と鼻水を服に擦り付ける木葉。
「もっと色々したかったよ!
私、キスもまだなんだよ!?
なんで死んじゃったの?
私が弱いから?
私が瑛太みたいに強くなかったから?
ねぇ、教えてよ……」
「そう……かもしれない。
事実、僕はあいつらのうちの一人を倒した……筈だ。
でも、君が自分の弱さを恨むなんてのは、間違ってるだろ。
だって、僕以外、あいつらに勝てた生き物今のところいないんだ。
君が弱いんじゃなくて、あいつらと僕がおかしいんだ」
「でも……」
「木葉!」
沙希の良く通る声が、ピシャリと木葉の鼓膜を打った。
「貴女はあの時最後の最後まで抵抗しようとした。
私は、私にはそんなことできなかった。
貴女は充分に強かった。
……この話はお終い。
今は、なるべく瑛太様の重りにならないよう、穏やかに逝く事を考えましょう」
そう言うと、沙希はその言葉の通りに穏やかな微笑みを浮かべた。
「随分、落ち着いてるんだね、沙希ちゃんは」
「瑛太様が、ここにいるからこそですわ。
一番好きな人の側で消える事が、出来る、なんて、わた、わたし、は……」
音もなく、沙希が消えた。
「……すごいなぁ、沙希は。
最期まで笑ってたよ。
私、泣き虫だ」
「うん」
A太はそれ以上何も言えなかった。
「バースセンセのこと、お願いね」
「できれば嫌だけど、わかった」
「ぜ、絶対だかんね!?」
「わかってるって」
「嘘ついてない?」
「嘘はつかないよ。
僕は人間じゃないからね」
「なにそれ、わけ、わかんないよ」
A太は、丁度木葉の顔が有った辺りを撫でてみた。
何の感触も帰ってこなかった。
「さて、バースさん。
この部屋にはもう、僕と貴方以外には誰もいない。
本当は狂ってなんていないんだろう?」




