走ります。
麗華がマツモトミヨシ社の連絡端末に向かって呟く。
「………釜谷恭蔵が消えた」
その報せは、ゾンビ達による小さな戦争が発する騒音の中でも、耳に装着した受信機を通して、全員に伝わった。
「………………………」
楓がジャックの腕の中で、音にならない声を上げる。
それ以外のものは淡々とその結果を受け止めた。
A太が走る。
流れ弾が腕に当たるが、微塵も気にせずに走る。
地面にジャックの肉で出来た足の平が叩きつけられて、僅かに裂傷が生じた。
ほとんど誰にも気に留められずに、A太は研究所の裏口まで辿り着く。
「着いた。
与那城伯英は?」
『………最上階。
それと……』
「なんだい?」
『………荘司郎がいる。
与那城伯英の隣』
頭痛に耐えながら、A太は死後の世界でのアレクサンドリア邸の様子を思い浮かべる。
そこに荘司郎の姿は無かった。
「ねぇ、麗華ちゃん。
君は、死なないよね。
いや、そのうち死ぬんだろうけど」
『………あなたが私に死んで欲しくないと、もし仮にそう思うのなら、私は死なない。
死んでも死なない。
グチャグチャの中身だけになっても、生き延びてみせる。
でも、きっと、今の瑛太は……』
「ごめん、そういう話は今する事じゃ無かったね。
始めよう」
A太はカードキーを扉に取り付けられた装置に突き刺す。
音が鳴ってから引き抜き、ポケットの中へと乱暴に突っ込んだ。
「内部に二人以外の人間は?」
『………いない』
「じゃあ、入り口の方は後どれくらい持ち堪えそう?」
『………もう駄目みたい』
その一言から、A太は敵の戦力が思った通り絶望的に強大である事を知る。
あの集団を壊滅させるということは、その中にいるジャックすら上回る、異常な戦力を持った敵がいるということであり、ジャックに及ばなかった自分が太刀打ちできる相手では無いと、A太は自覚した。
目的を達成して、そのまま逃げ切る。
可能かどうかはわからなかったが、A太はそれを目指すしかなかった。




