それでも計画は実行されるようです。
志倉が、安っぽいプラスチック製のライターを取り出す。
そのまま地面まで広がった灯油に火を点けた。
手を焼き絶叫する志倉、何が起こっているのかもわからぬまま、肌を焦がしていく恭蔵。
ジャックが咄嗟に火の中へと飛び出し、楓を爆発的に広がる炎から守る。
ぐしゃりと恭蔵だった物が崩れ落ちた。
それを見せまいと、ジャックが楓の目を覆い隠すが、その動作で楓は恭蔵がどういった状態にあるのかを察してしまった。
「ま、おう………さま」
楓の呟きが耳に入る、ジャックは反射的に志倉の首をはねた。
「……死ん…だ?」
遠目で見ていたA太は困惑する。
人間がポロポロと崩れ落ちるように、脆く死んでいく様は、人間にとても近い不死身の化物のA太にとって、あまりにも非現実的な光景だった。
耳にまとわりつくような、そんな気味の悪い電子音を発して、銃を構えた男達が研究所前に転送される。
「クソッ、バレたか!
松浦、起動しろ!」
「し、しかし」
「構わん、何れにしろ此の儘では全員消される!」
唾を飲み込んで、震える指で松浦がスイッチを押す。
忽ち人の形をした腐肉達が、何処からともなくフラリと現れた。
迎撃する謎の男達。
地面と平行に銃弾の雨がゾンビに降り注ぐ。
ジャックは体を風船のように膨らませて、楓を包み込む事で銃弾から守った。
銃弾を受け激昂したゾンビが男に襲いかかる。
それを皮切りに、ゾンビ達は知性を捨て、自分の肉を撒き散らしながらも男達をミンチにしようと迫る。
しかし一部の聡いゾンビは、この事態を発生させた真の原因がすぐそばに居ることに気がついた。
松原の頭に異形の牙が襲いかかる。
「店長!」
松浦がアサルトライフルを構え、反動で腕を震わせながら、滅茶苦茶に銃弾を乱射した。
バラけた弾のうち、3発がゾンビの頭部に当たり、1発が松原の鼻先を削ぐ。
その傍で例の英数字を唱えて、麗華がこの世界のデータベースへと繋がった。
「滅茶苦茶だ……」
A太は呟くと、恭蔵の方に向けて手を合わせてから、研究所の裏口まで走った。
恭蔵の死により、計画に歪みが生じている。
それでも、もうそれを止める事の出来る者は誰一人としていなかった。




