ジャックされそうです。
ところ変わって、ここは日本有数のドラッグストアチェーン、マツモトミヨシの素穂市支店。
その中の事務室にて、二人の男が沈んだ顔を突き合わせていた。
「店長……どうしましょう?」
「………どうもこうもあるか」
マツモトミヨシ素穂市支店店長、松原清。
その向かいに座っているのが、副店長の松浦宏。
何を隠そう、この二人こそが素穂市のゾンビ騒ぎを起こしている元凶なのである!
「まさかあんなガキ相手に、ウチが輸入したありったけのゾンビの半数以上が倒されるとは……」
「ど、どうしましょう」
「どうもこうもあるか…」
店長、閃く。
「待てよ、そうだ、アレがあるじゃないか」
「あ、アレ、とは、一体?」
「ジャックだ」
「………今、なんと」
「ジャックをこの街に投入する」
説明しよう!
ジャックとは、現存するゾンビの中でも最強クラスの、兎に角凄いやつなのである!
どのくらい凄いのかというと、もうアレである。
アレがそれするぐらい凄いのである!
因みに猟奇殺人犯やサイボーグ侍や、薄くて速くて黒いアイツとは一切関係が無い。
「……本気、ですか?」
「ああ、確かに奴のシリアルキラー気質は諸刃の剣だ。
だがしかし、このまま放っておいては、我々の方が先に全滅してしまう。
もう、手段を選んでいられる段階ではないのだよ」
店長、電話機を手に取る。
プルルルル、プルルルル。
少々お待ち下さいのアナウンスの後に、今流行りのアイドルソングが受話器から流れ出した。
にゃんにゃんねこにゃん♪にゃんでにゃにゃん♪
ねこねこにゃんにゃん♪い☆り★お☆もて♪
ガチャ。
「あ、もしもしジャックです。
どなた?」
「ああ、どうも、マツモトミヨシ素穂市支店店長の松原清です」
「あ、どうも松原さん、お久しぶりです。
この前はお中元ありがとうございました。
ちゃんと使ってますよ、タオル」
「それは良かった」
「いやあ、あれはいいものですね。
こう、毛がまるで猫の体毛のように抜け落ちて、手がかかるところがまた愛らしいというか…」
「ごほん。
えっと、今回お電話させて頂いたのは仕事の件なんですが…」
「ああ、ああ、そうでしたか。
それじゃあそっちで直接お話ししましょうか。
今シカゴなんでちょっと待ってて下さい」
プツッ。
電話が切れた。
「松浦!
急いで茶と菓子の用意だ!」
「はい、只い…」
「あのー、すいませーん。
ジャックなんですけど、松原さんはここでよろしいんでしょうか?」
「「速い!!?これで勝つる!」」
速いのである!
またまたところ変わって、アレクサンドロス孤児院の中。
「えいくんえいくん!
また、あれやってよぉ」
「えー、しょうがないなぁ」
自分の首をお手玉するという一発芸が受けて、A太は孤児院の中でも人気者になっていた。
「良い子は危ないからマネしちゃだめだよ」
「それじゃあえいくんは悪い子なの?」
「うーん、生物関係の学者さんを死ぬ程困らせたって意味じゃ、かなり悪い子かもね」
「……良くわかんない」
ピンポーン。
突然鳴り響く呼び出しベルの音。
「………私が出る」
それから程なくして、麗花の悲鳴が孤児院の中を木霊した。
「え?」
「麗花お姉ちゃんの声だ」
「何?怖い!!」
不穏な空気。
「ちょっと僕が様子を見てきます」
死亡フラグをビンビンに立たせて、A太は玄関まで走る。
そして、玄関にてA太は最強の敵と合間見える。
「あ、どうも始めましてジャックです。
ちょっとこの孤児院をジャックしに来ました」
麗花の首を掴んだ醜い腐肉の塊が、ニヤリと怪しい笑顔を顔らしきものに浮かべた。