自分が何者であるかをデータで読みました。
芳乃が世界の真実のほんの一欠片を語る。
「芳乃さん、それは本当なのか?」
麗華の手がおずおずと挙がる。
「………私が証明できる……かもしれない。
A太アレお願い」
A太が立つ。
そこに視線が集まる。
「……36c…gh987……4…59l7k…………
guea……569…gn6………gn357…gn6458…07…06g8……gna…9580n………」
麗華がA太の額に自分の額をつける。
「エクステンド
……alegruen
スタック
………guelnila」
麗華の言葉によって世界の実態が暴かれる。
「……これは」
世界は数式で出来ていた。
原初の世界の夜。
八つ目の月に照らされた黄色い風が吹く紫の大地から、麗華達は世界の仕組みへとアクセスする。
「そんな馬鹿な……」
松浦の一言を残して皆が絶句する。
それは当然のことだ。
自分が作り物の世界の中で生かされている実験生物だと知ったら、驚くのが自然な反応だ。
そんな中、不自然な者も居た。
例えば芳乃楓は驚愕を通り超して絶望すると同時に、またそれとは全く関係無い事象に対して驚愕程度の感情を抱いていた。
芳乃楓は、現在A太達が生きているこの世界を産み出した与那城伯瑛が居た世界から、伯瑛の生み出した世界生成装置を中継し『そのままの個体』のままで、自分はこちらの世界にやって来ていたのだと勘違いしていた。
しかしデータを幾ら辿っても生成装置のポータル機能仕様履歴は一つも無く、代わりに楓が今までとは別の個体としてこの世界に生成された時刻だけが記されていた。
もう一つ驚愕については、麗華がguelnilaというコードを発した事に起因する。
「えっと、麗華……ちゃんだっけ」
ぼそぼそと楓が麗華に囁きかける
「その、後で話したいことがあります」
また、もう一人の不自然な者であるA太は、安堵の溜め息を漏らした。
実験体Aの項目には、人間という記述が含まれて居なかったのだ。
実験体Aは実験体Aという新たな括りの生物としてこの世界に存在していた。
この世界が作り物だろうとデータであろうと、それは揺るがない事実であった。
証明を終えて、麗華とguelnilaが世界を元に戻した後、具体的な作戦が発案された。
それらが一つに纏まり、決行する時間が決まるまで、そう長くはかからなかった。
「それでは解散とする」
A太は事務所を出ると、真っ先にトイレに向かった。
鍵を内側から掛けナイフを取り出す。
微塵も躊躇わずに、瑛太はそれを脳幹に深く突き刺した。




