役者が揃ったようです。
マツモトミヨシ素穂市支店事務室にて、喧騒は消え去り奇妙な落ち着きがそこには有った。
「とりあえず少年の足をなんとかせねば……」
A太が溜め息を吐く。
「だから、もう戻らないんですって、放っておいて下さい。
僕の足はもう一生、永遠に元に戻らないんです!」
A太の怒声に反応して麗華が子供のように泣きじゃくる。
ジャックであるはずの肉塊は、項垂れていた。
「やはり、私はおかしい。
何故だ?
奴の、奴の足を壊した。
もう一生戻らないんだぞ。
長い長い、ひょっとしたら永遠に続く命の中で、奴は永遠の後悔を引きずり……」
楓がジャックを諭す。
「もうやめて、ジャックさん。
昔はどうだったか知らないけれど、今のジャックさんは人が傷ついているのを見て喜ぶような人には見えません」
「でも、それでは、私は何の為に生きれば」
恭蔵が笑った。
楓が片目を瞑る。
「それでは、私の為に生きるのはどうでしょう?
なんて」
「ふはは。
貴様も我が魔王軍の配下というわけだな」
「……それは嫌ですね。
ですが、成る程、ただのめぷるさんのファンとして生きる、そんな人生も素敵でしょうな」
「それじゃあ、柑橋めぷるとしてファンに命じます。
あの少年の足、元に戻せますか?」
ジャックは全細胞を視神経に集中させ、自分がつけた傷を観察する。
「元には……しかし」
ジャックは自分の腐肉を千切って、A太の元へと運んだ。
「先程はすいませんでした。
私自身は君に殺された記憶があるけれど、不思議な事に君には何一つ恨みつらみを感じていません。
ただ申し訳ない気持ちで一杯です」
「僕はお前が憎いんだろうね。
いかんせんこんな気持ちになったのは初めてだから、詳しくはわからないけれど」
「そうですか、でもそれは今の現状には関係ありません。
これ、どうです?」
ジャックは腐肉を正確に千切れたA太の足の形状に変える。
「無いよりはましだと思いますけど」
「有難く頂くよ。
ちょっと臭いけど」
松原がハンカチで汗を拭った。
「解決、したのか?」
松浦が自分の淹れた茶を飲んだ。
「いいえ、何も。
ジャックが危険性を孕むことに変わりはありませんし、何より我々の目的はまだ達成されていないじゃないですか」
「与那城研究所をぶっ潰す。
これが我々の全てだったな」
楓が頷く。
「奇遇ですね、私達もそれが目的です」
「おい、初めて知ったぞ」
「今始めて言いましたからね」
「めぷるさんのファンとして、私も同じ目標を持たねばなりませんな」
A太が二本の足で立ち上がる。
「役者はそろった。
そういうことかな」
麗華だけが、虚ろな瞳でどこか違う場所を見つめていた。




