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Dead! Dead!! Dead!!!  作者: quklop
観測者による主観的観測記録
47/98

我輩はやはり魔王である。

A太達が帰る場所を失っているころ、魔界の王を自称する元フリーターの釜谷恭蔵と、現ニートの芳乃楓もまた、行き場を失い街を彷徨っていた。


「おい芳乃。

そろそろ時間がきれる、早く起きろ」


とある漫画喫茶の一室に宿泊した二人。

恭蔵はゲッソリと窶れた顔で、更に顔色の悪い楓の肩を揺する。


ふらりと亡霊の様に楓は起き上がると、恭蔵の腕の中に雪崩かかった。


「重いのだが」


明確な悪意を持って恭蔵の腕を抓る楓。


「……っつ。

ははっ、やはり貴様は強い女だ」


恭蔵は楓を壁にもたれかかせて座らせると、楓のハンドバッグから櫛を取り出した。


「これでは何方が従者であるのか、分かった物では無いな」


慎重に楓の髪を梳かしていく恭蔵。

無重力状態だった量の多い髪は、幾分かはマトモに見られるものになった。


「……いつまで」

「ん?」


恭蔵は二日振りに楓の声を聞いた。


「申せ。

今日の我輩は寛大である。

少々の悪口ならば、甘んじて受け入れてやらんこともない」

「……いつまで魔王様ごっこしてるの?」


恭蔵はここ数日楓に例の薬を飲まされていない。

魔王ではなく、唯の釜谷恭蔵になろうと思えば、いつでも可能だった。


「何を言う。

我輩は将来この世の全てを統べる者、魔王なるぞ」

「でもそれは薬で……」

「ああそうだ。

これは何をどうしたのかは良く分からないが、君にそう思い込まされた設定だ」

「なら、どうして?」

「どうして君が俺にそんな事をしたのかはわからない。

だが、魔王として生きる日々は、案外悪くも無かった。

その過程で俺は人殺しになったりもしたけど、それも全部、なんだかんだで楽しかったんだ。

口煩い従者が一緒に居てくれたお陰かも知れない」


恭蔵は深く溜息をついた。


「何か、やりたい事があったんだろ?

俺に世界征服をさせたかったんだろ?

いいさ、やってやるよ。

人殺しでも、麻薬の密売でも、屍体攫いでも何だってしてやる。

だって、最高だろ?

魔王になって世界を征服するなんて、全世界の男の夢だ!

そのついでで、君の夢も叶う。

何一つ悪い事なんか無いじゃないか」


「………………」


「俺は君と一緒に世界を征服したい。

だから……芳乃よ。

我輩に、こんな頼りない我輩ではあるが、ついてきてくれるか?」


芳乃は首を横に振った。


「頼りなくなんか…ないです。

魔王様は、私の魔王様は、私の、私の、わた、し、の」

「お、おい、何も泣くことは無いだろう」

「ただ、一人の、魔王様ですっ!!」


子供の様に泣きじゃくる楓の頭を撫でる恭蔵。

その部屋の扉の奥では、アルバイトの店員が、領収書を握り締めて涙を流していた。


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