捕まりました。
「………はい、麻酔弾を撃ち込み身柄を拘束しました。
自決に対する対策は万全です」
薄れゆく意識の中で、A太は混乱していた。
何故、自分が今、この様な状態に置かれているのかが、全く理解できていなかった。
警備を警戒してはいた。
だからこそA太は深夜のこの時間に強襲を仕掛けた。
しかし、与那城研究所の入り口手前で、一発の弾丸の射線がA太を捉えた。
予想外の攻撃ではあったが、A太は余裕を持って弾丸を躱した。
しかし、その回避を読んでいたかのように、何処からともなく二発目の弾丸が回避後の僅かなスキを狙って襲いかかる。
A太はその弾丸を直接殴り飛ばす事で、胴体への直撃を回避した。
しかし、それが間違いだった。
殺す事が目的の弾丸であれば、A太にとっては雨粒も同然だが、それが麻酔弾となれば話は別である。
右手から全身に痺れが伝わり、最後には地面に伏せるA太。
体が完全に動かなくなった頃に、トドメとばかりにA太は注射器の針を刺された。
そして、現在、A太は防弾服とヘルメットを装備した男達に、電柱に括り付けられている。
産まれて初めてA太が経験した敗北だった。
その現場の後ろには、麗華が闇に紛れて潜んでいた。
右手にサブマシンガンを抱えた麗華は、闇の中からA太を囲んでいる男達の様子を伺う。
『止めときましょうよ。
彼がやられちゃってるって事は、私達じゃ到底勝ち目は無いって事ですよ。
最初からあんな人はいなかった。
さ、帰りましょう』
脳内でkhajatlughaが麗華に話し掛けるが、それを無視して麗華は敵へと近づく。
『貴方が死んでしまっては、私も消滅してしまうんですよ。
どうしてくれるんですか!』
死ななければいいでしょ、とだけ答えて、麗華はサブマシンガンの照準を、唯一防護されていない部位である顔に合わせる。
しかし、丁度そのタイミングで、男達は研究所のビルの中へと入る。
流石に不利だと感じた麗華は、一旦物陰へと隠れる。
男達が去った後には、電柱に括り付けられたA太だけが残された。
周囲に誰もいない事を確認してから、麗華がうな垂れたA太の前に立つ。
「………瑛太」
反応が無い。
麗華は後手に縛られているA太の手首を見る。
金属製のガッチリとした手錠がその手首を抑えつけていた。
取り敢えず麗華は手錠を引っ張るが、麗華の力だけではビクともしなかった。
麗華は深呼吸をするとサブマシンガンを構える。
そして手錠の錠前部分に向かって、慎重に銃口を向けた。
「………当たったら、ごめんなさい」
『普通ならごめんじゃすみませんけどねぇ』
瞬時の指切り射撃で一発だけ放たれた弾丸は、確かに手錠を捉えたが、カキンという音を出して弾かれただけで、手錠が壊れることは無かった。
しかし、その衝撃を受けて、A太の意識がほんの少しだけ覚醒する。
「チギ………レ」
「………え?」
麗華は、A太の言葉の意味を理解してはいたが、なかなかそれを実行出来ないでいた。
『始めて会った時は、グッチャグチャにしてたじゃないですか。
ほら、一思いに』
ビルの中から、夜の街に人の声が木霊する。
それを聞いて、麗華は意を決した。
決めてからは速かった。
サブマシンガンによってA太の手首から先が吹き飛ばされ、A太の体がドサリと落ちる。
「…コ………ロ…」
意図を汲み取ると、麗華は引き金を引いた。
「………ごめんなさい」




