与那城瑞希の日記 3
三年間に亘る研究の結果、瑛太には肉体の再生以外にも、通常の人間には備わっていない様々な機能があるということがわかった。
多すぎて列挙していてはキリがないので特筆すべきものを一つ挙げる。
その特筆すべき機能とは、短時間に連続して瑛太が死亡した際に行われる自己複製である。
いや、複製ではなく、自分と同じ特性を持った新たな生物を産み出すといった方が近いか。
テスト結果では、一秒につき122回瑛太が死亡した際に、一匹の既存の全ての生物とはかけ離れた姿をした小型の生命体が生成された。
瑛太と同じく生物は肉体の再構成が可能で、瑛太本人と同じくDNAの摘出を行うことで細胞の結合が崩壊し、完全な消滅を果たした。
テスト当時はこの程度の事態で済んだが、瑛太の成長が進んだ現在では一体どのような個体が産み出されるかわからない。
現在のこの世界の生態系そのものが覆る可能性すらある。
この特性の報告を受けた与那城研究所本部は、実験体Aの廃棄をこの与那城研究所第一支部に命じた。
そうして現在に至る。
もう一つ私が書かなければならないことがある。
マツモトミヨシ社への技術流出についてだ。
実験体Aを開発した直後、私は与那城伯瑛の手によって記憶消去の手術を受けた。
これにより私は、実験体Aをどのように産み出したのか、その記憶を失う筈だった。
しかし私が実の娘だということもあり、伯瑛は油断していたのだろう。
全ては不可能だったが、一部の技術については書類に記して秘蔵をすることができた。
私は実験体Aが処分されるという決定が下された時、この技術書をマツモトミヨシに流出させた。
技術書は完全な物では無いが、あの変態企業ならば与那城研究所を壊滅させるための充分な武器にしてくれるだろう。
これを読んでいるかもしれない馬鹿息子に告ぐ。
マツモトミヨシと組んで与那城研究所を潰せ。
じゃなきゃ、延々と後ろを付き纏われる羽目になるぞ。
お前がこれからも生きていく為にはそうするしかない。
すまない……本当に悪いと思っているが、これが私の限界だった。
追伸。
仮に私が死んだとしても、葬式はしなくていい。
どうせだれも来ない。』




