与那城瑞希の日記 2
一つ伸びをした後、再びA太は日記と向き合う。
「飛ばしてもいっか」
ページの端を摘むと、ぺらぺらと捲り始めた。
『329年7月19日』
「あ、これは覚えてる」
『今日は初めて瑛太の誕生日を祝った。
情けないけれど、チキンとケーキは出来合いの物を買ってきた。
本当は二人だけで会を開くつもりだったのだが、牧島達にばれて、結局研究所全体を巻き込んだ馬鹿騒ぎになってしまった。
それにしてもあの爺までもが、何故かサンタ服で混ざってくるとは思わなかった。
あいつのことなので、間違いなく不純な目的で会に参加したのだろう。
瑛太に渡すようにと謎の包みを置いて、あの爺はまたどこかへ去って行った。
……x線装置の準備をしなくては』
「覚え……てる?」
A太は当日の記憶を反芻するが、そこにサンタ服を着た老人の姿は見当たらなかった。
『329年7月20日
包装紙の中身はテレビゲームのソフトだった。
危険性のあるものではなくて本当に良かった。
思惑通りに動かされるようで癪だが、瑛太にゲーム機の本体を買った。
宝の持ち腐れというわけにもいかないし、夜中瑛太が暇そうにしていたので、まあ悪くない選択だと思う。
……ちょっと私もやってみたくなったというのは内緒だ』
「そういえばよく覚えてないな。
いつからゲームしてるんだろう?」
その後は暫く日常風景の模写が続いていたので、A太は流し読みでぱらぱらとページを捲っていく。
時折爺なる人物が登場しては、A太に本人の覚えが無いことをしていくのをA太は確認した。
最後のページでA太は手を止める。
『331年4月2日
実験体Aの廃棄処分が決定。
DNAの摘出手術は明日の12時丁度に行われる予定。
これが終了すると、実験体Aは細胞の結ごうをはか さい ごの 抗議を
331年4月3日
実験体Aを……瑛太を逃がした。
時間が無かったので、7階の窓から下に落とすことになってしまった。
相当痛かっただろう……。
どうせ私が殺されるのも時間の問題だと思われるので、包み隠さず全てを書こうと思う。




