与那城瑞希の日記 1
『328年7月19日
遂に完成した。
いや、してしまった。
万が一このノートが誰か他の者の手に渡る可能性を考えると、詳しくは書けないが、これはこの研究所を『私が作ったクッキー』にするものである。
クッキーの材料はクマムシとプラナリアと、そして適当に拾ってきた茸を少々だ。
それに加えてクッキーを作るには生地が必要だが、それが誰であるのかは、私の知るところでは無い。
まさか成功するとは思っていなかったが、完成してしまったからには覚悟をしなければならない。
忘れるなよ、私。
余談。
私はチョコチップ入りが好き。
328年7月20日
そういえばこれをどう呼ぶかを考えていなかった。
………。
とりあえず実験体Aとかでいいか。
まるで幼児のようだったAは、今日の午後には小学校低学年くらいの少年に成長していた。
だがまだ言葉らしい言葉も喋れていないので、成長を果たしたのは外見に限ると思われる。
328年7月21日
最悪だ。
あの糞爺にAの存在がバレた。
あの爺は嬉しそうにメスを手に取ると……やめよう、こんなこと書いてもどうにもならない。
悔しいけど、あの爺はやはりこの世で最高の科学者だ。
生き物の精神と肉体について、両方を知り尽くしているどころか、知らないことですら推測で当ててしまう。
実際にあの爺の確信通り、何をされてもAが死ぬことは無かった。
やはりあの爺はこの世で最高の科学者だ。
人間としては最低だけれど。
328年8月1日
喋った!
Aが言葉を喋った!
私のことをお母さんと呼んだのだ!
喜んでばかりではいられない。
この急成長についても研究し纏め上げなければならない。
やることは山程あるのだ。
328年8月2日
私は馬鹿だ!
レポートを書くより先に、まず母親としてAに何かを食わせるべきだった。
いくら死んでも直ぐに生き返るとはいえ、Aだって生き物なんだから腹が減るのは当たり前だ。
とりあえず私が唯一まともに作れる料理である、お粥をAに与えてみた。
どのくらい食べるのかわからなかったので、とりあえず作れるだけ作ったが、まさか全部平らげてしまうとは……。
本当にかわいそうなことをした。
これからはなるべく、研究者ではなく母親としてAと向き合うことを考えなければ。
328年8月3日
そうだ、Aに私の子供としてのちゃんとした名前を付けよう。
名前は重要だ。
多分。
世界中の親が誰しもそう言うのだから間違いない。
……一日中考えたが、ふさわしい名前が思いつかない。
今日はもう寝ることにしよう。
おやすみ、A。』
そこでA太はページを繰る手を止めた。
「ずっとこんな調子なのか。
酷い胸焼けがする」




