神らしいのだが。
「これは一体?」
ピクリとも動かない瑞希の死体。
荘司朗は瑞希の口の辺りに手をかざし、呼吸が無いことを確認する。
「これは神です」
「神……?」
「神というのは気取った言い方ですが、具体的に申し上げますと、世界を生成する装置というところでしょうか」
装置という人を機械のように扱う言葉が、これが死体であるという事実を荘司朗の中に刻み込む。
しかし、荘司郎は悲しみもしなければ、驚きも憤りもしない。
彼にとってよく知っている人物の死とは、特に特別な事象では無かった。
与那城瑞希の死よりも、その装置についての興味が上回った。
「ゲストの方、どうぞこちらのモニターをご覧下さい」
モニターに映るのは緑。
どこまでもどこまでもひたすらに続いていく稲穂のカーペットと雲一つ無い青空。
狂気じみている程に統一された風景の中、ざしゅざしゅという音をさせながら、モニターにこの景色を映している何かが移動していく。
突然映像が高度を落とし、地面を映す。
笑い声が木霊し、地面の上で潰れたミミズと、一組の小さな裸足が画面の下部に映った。
「お分かりになりましたか?」
「この映像は、この人の視覚そのもの、音はこの人が聞いているそれ。
そうなのか……?」
「おっしゃる通りです。
そして映像はCGなどの人工物ではない。
いや、ある意味究極の人工物と言えましょう。
この与那城瑞希が産み出しているものです」
「死人が夢を見ている?」
「いえ、違います。
与那城瑞希は世界を創造したのです。
これをどうぞ……」
老人は荘司郎にヘルメット状の装置を差し出す。
そこから伸びるケーブルは、瑞希が繋がれているものと同じ装置に直結していた。
荘司郎はヘルメットを跳ね除けると、椅子から立ち上がった。
「ご、ご遠慮するのだが!」
未知というものは、基本的に身近に存在する場合その周囲の人間に恐怖を与える。
死体のことは良く知っていても、その死体が自分の作った世界で遊びだすだなんて事象は見たことも聞いたことも無い荘司郎。
恐怖に耐えかねて、荘司朗はエレベーターまで走って逃げた。
「アレは、もう一度来るな」
その後ろ姿を見送って、くくくと笑う老人。
彼の壮大なる実験は、まだ始まったばかりである。




