紳士的強制連行なのだが。
「警備員どころか受付の人もいないのだが」
困惑しながらも荘司朗は、A太から受け取ったカードキーを機器に差し込んで、研究所の内部へと侵入する。
「…それにしても彼は得体が知れないな」
周囲にだれも居ないことを確認すると、荘司朗が呟く。
「今までどこで何をしていたのか、与那城さんがいるというのに何故ウチに来たのか?
何一つ明かしてくれないが、その癖奇妙な程自然に我々の中に溶け込む」
荘司朗の独り言は止まらない。
それが不安から来るものだということに、本人はまだ気が付いていなかった。
「……だがそれが嫌かと問われると、そうとも言えそうに無いな。
こうして私も、彼に乗せられてしまったわけだし」
自嘲気味に笑って、エレベーターのボタンを押す。
A太が隠し持っていたゲスト用の名札を首から掛けて、荘司朗はエレベーターの到着を待った。
やはりエレベーターは、途中で止まることなく荘司郎のいる一階まで降りた。
キシィィン。
機械的な音を立てて、ドアが横に開く。
荘司朗は生唾を飲み込むと、その無機質な箱の中に入り教えられた通りの階の番号を押す。
「そういえば、瑛太は忘れ物があると言っていたな。
見つけたらついでに持って行ってやろう」
その後は滞りなく進んだ。
それも当然といえば当然だ。
人が居なければ前もって準備していた爆薬を仕掛けるだけなのだから。
その過程で荘司朗はA太の忘れ物だと勝手に推測した一冊のノートを懐に入れる。
「完璧なのだが」
慌てふためくバースを妄想してニシシとひとしきり笑った後、部屋を出て動いた形跡の無いエレベーターに乗り込む。
荘司朗は1と書かれたボタンを押した。
キュイイインという音を発して、モーターがエレベーターに接続されたワイヤーを巻き上げる。
つまり上昇する。
因みにこの研究所に地下階は存在しない。
「!?
謎なのだが!? 謎なのだが!!?」
パニックに陥る荘司朗。
エレベーターは最上階まで進むと、ガクンと停止した。
開いたドアの向こうには、白髪交じりのひ弱そうな男が一人。
「おや、珍しい。
ゲストの方ですか、どうぞこちらへ」
一見紳士的に、しかし確かな強制力をもってして、荘司朗の腕を掴み誘う老人。
「は…はい」
成す術も無く荘司朗は、奥へ奥へと果てしない廊下を歩むことになる。




