久々の休暇である。
奇妙な話の流れのまま進んで行く子供達の合同会議。
その輪から少し離れたところで、A太は冷たい目で彼女達を眺めながら思考する。
バースにいたずらを仕掛けるために、恐らく研究室の中に入るであろう荘司朗。
彼に日記を回収して貰うのはどうだろうか?
日記がある場所に罠を仕掛けるように誘導して……。
バースに日記を入手させる場合には、そもそもバースが研究室に行く理由を作りだし、その上で特定の場所を荒らし、そこに有る瑞穂の私物を持ち帰る必要性を産み出さなければいけない。
荘司朗を利用する方が手っ取り早いと判断したA太は、早速トイレに行くフリをして、自室にて自殺を敢行する。
瑞穂に日記の詳細な在り処を問いただす為だ。
一方その頃、自称魔王の元フリーターにして現ニートである釜谷恭蔵と、その僕を自称する詐欺師の芳乃楓は、彼らが魔王城と呼ぶぼろアパートの一室でぐうたらとしていた。
「あ、魔王様、粉塵持ってませんか?」
「先の大戦で使い切ってしまってな」
「全く、どうしようもなく使えないグズですね、魔王様は」
「う、すまん」
床に寝そべり、携帯式のゲーム機を付き合わせる二人。
「あ、魔王様また死んだ」
「く、魔界滅聖斬獄刀さえあれば……」
「刀といえば魔王様、世界征服の方は宜しいのですか?」
「話の繋がりがわから…お、支給品が届いたな」
「支給品といえば魔王様、世界征服の方は宜しいのですか?」
「話の繋がりが全くもってわからん!」
魔王はゲーム機を敷きっぱなしの布団に目掛けて放り投げ、下の階に騒音を轟かせながら立ち上がった。
「全く、さっきから黙っていれば征服征服と喧しいぞ!
そもそも征服とは何だ!?
我輩がようやく勝ち得たこの休暇を潰してまで行うべきことなのか!?」
「魔王様、言わせていただきますが…」
魔王と同じくわざわざ音を立てて立ち上がる楓。
いい迷惑である!
「魔王とは、征服をするものなのです。
人を魔の者へと作り変え、異を唱える勇者共を虐殺し、世界の全てをその手中に収めるのです。
しなければいけないではなく、した方が良いでもなく、魔王様が魔王様である限りそれは絶対的に征服を行っているのです」
「ふん、ならば我輩は今日から魔王を…魔王を…あれ?
俺、何を言おうとしたんだっけ?」
「……もう切れたか。
改良が必要ね」
ポーチから、楓は一粒の錠剤を取り出す。
それを指で摘むと、楓は恭蔵の鼻孔の中へ無理矢理突き入れた。
「うぐ、のおおおおおおお!!?」
激痛と共に、恭蔵は錠剤を鼻から飲み込む。
「魔王様、目が覚めましたか?」
「おおおおお…お?
おお、芳乃か。
我輩はどうやら悪い夢を見ていたようだ。
アレは恐ろしかった。
悪魔のような女が、我輩の鼻の穴に何かを無理矢理捻じ込んだのだ。
その女の醜い形相といったら…おい芳乃、なぜ我輩の足を踏む」
ふと違和感を抱く魔王。
自分は何かを言いかけたまま眠ってしまったのではないか?
一体何を言おうとしていたのか。
「芳乃よ、我輩は何の話をしていた?」
「世界征服についてです」
「おお、おおそうであったな。
まずはこのアパートを我が領地とするべく、結局あの後再会していない大家に話しを持ちかけるか。
む、ところで芳乃、何か臭わないか?」
「魔王様から発せられる貧乏臭さと……それと若干の焦げ臭さがありますね」
窓を慎重に少しずつ開いていく芳乃。
その予想通りに、魔王城内部は瞬く間に煙で満たされた。




