悪だくみしています。
「う……あ………」
「………起きた?」
生き返りを果たしたA太の視界に初めて映ったものは麗華の顔だった。
「あ、うん。
ここ、孤児院だよね。
運んできてくれたの?」
「………玄関で倒れてたから、ここまで」
「いや、僕が言っているのはそうじゃなくて、あの町の境目から…」
「………?」
「ま、いっか」
A太は町の境目からここまで自分を運んだ何者かについて思考を馳せた。
不死身の自分ですら何度も何度も死にまくったあの場所から、どうやって引っ張りだしてきたのだろう?
無論結論が出るはずも無かった。
「そういえば、玄関で倒れてたらしいけど、バースさんとか心配して無かった?」
「………誤魔化しは万全」
「なら安心」
因みにその誤魔化しにも、麗華はカジャトルアを存分に活用していたりする。
「………もう少ししたら晩御飯だから」
「あ、うん、了解。
…そうだ」
「………何?」
少しの逡巡の後、A太はぼかしを入れて今一番の疑問を聞く。
「…例えばさ、もし、もしもの話だよ?
産まれてからずっと一緒にいた割りとどうでもいい人が、突然ぽっくり死んじゃったとして、そしたら僕はどうするべきだと思う?」
「…………お墓を、建てる…とか?」
「そっか納得。
葬式っていうのもやるんだよね?
まあ、誰も死んでないけどね。
僕以外はね!
ハッは…!」
麗華が言葉を発する前の間が、いつもよりほんの僅かに長いことにも気が付かず、A太は笑い続ける。
麗華がA太の部屋を去ってからも、その乾いた笑いは続いた。
次の日A太は、バースに如何にして瑞穂の日記を入手させるかという議題について、脳内議会を召集した。
「ええ、これよりバース氏に如何にして瑞穂の日記を入手させるかについてを、モンシン? したいと思います」
最近見るようになったテレビ番組のニュースから、取り敢えず単語を引っ張ってみるA太。
なんでもマネしてみたくなるお年頃なのである!
「A太議長、意義あり!」
「なんだね、B太君?」
「そもそもこの議題について話し合う意義について私は疑問を感じます」
「そうだそうだ、あんな女の言うがままに動くだなんてどうかしている!」
「やいのやいの」
「がやがや」
「静粛に!」
「……」
「それでは、C太裁判長に最終決定を委ねようじゃあないか。」
裁判長の判決や如何に!?
「取り敢えず全員ぎるてぃー」
ここまで全て、A太一人の台詞である!
「何してんだ?
俺も混ぜろ…ってお前一人か」
この孤児院の子供たちの中で、唯一純粋な男であるあの彼がA太を見て怪訝そうな顔をする。
「あ、そういえば君名前なんていったっけ?」
「前川良治だ。
別に覚えんでもいい」
名前を明かされるのがこのタイミングなのは、特に伏線というわけでもなく、単純に作者の落ち度である!
「じゃあ忘れとくよ」
「やっぱ変な奴だな、お前。
で、一体一人で何喋ってたんだ?」
「バースさんにちょっとうちの母親の研究室を漁ってもらうには、何をどうけしかければいいかなって考えてた」
「わけがわからん。
わからんので俺も一枚噛ませて貰おう」
少年たちの怪しげな会話に、隣で絵を描いていた木葉と紗季が心を惹かれる。
「私もまーぜてっ!」
「瑛太様、バース先生はああ見えてしっかりとした目的が無いと動かないお方ですわ。
その、申し上げにくいのですが、けしかけるのではなく本当のことを正直に言ったほうが宜しいかと」
木葉が手を挙げる。
「それじゃつまんないよぅ。
バースセンセをいかに騙すかってのが、この話し合いのミソだとおもうのですよ。
うんうん」
私良いこと言ってるなぁー、といった表情で腕を組んで一人で頷く木葉。
「一つ俺から提案。
机の引き出しかなんかを開けると、そん中の光センサーが部屋の明かりに反応して、そのままボカン…ってな仕掛けはどうだ?」
「お、いいじゃん。
良治君意外といける口だったのか」
「ちょ、ちょっと、ボカンって何ですの? ボカンってなんですの!?
瑛太様まで何をおっしゃっているのですか!」
「ちょっとクラッカーが鳴るだけだよ」
「ああ、ちょっと過激になったとしても汚ぇ花火程度だ」
「はあい一対三で紗希の負けぇ」
「ぐぬぬ」
偶然四人の目の前を荘司朗が通りかかる。
すかさず木葉は荘司朗に抱きついた。
「はい、工作員確保ぉ!」
「グふッ!
…あ、あばらが」
不満そうな表情で一行を睨む荘司朗。
「私は撮り貯めてたアニメを消化している最中なのだが。
そろそろクライマックスなのだが」
「まあちょいと待て。
かくかくしかじかで、こういうものを作りてぇ。
出来るか?」
「なるほどかくかくしかじかか。
火薬の調整が面倒だな。
でも出来なくは無い。
面白そうだな、乗った」
「さっすが荘司朗先生。
こういう時は頼りになるぅ」
「木葉、それは絶対褒めてないのだが。
寧ろ貶している気さえしてくるのだが」
重いため息を吐く紗希。
「もう、どうなっても知りませんわよ」




