撃たれました。
地図を描いてもらうものの迷子になり、一度交番に戻って直接案内してもらおうと、交番に戻る最中で迷子になるA太。
ゾンビに襲われること数百回。
食われること数百回。
そしてゾンビを倒すこと数百回。
彼は人も自分も知らぬ間に、一晩にしてこの街の救世主になっていたのだ!
「ああもう疲れた。
一体どこまで行けばいいのさ?」
しかし、街は救えど目的地は見つからず、ついに朝日が家屋の屋根から顔を覗かせる。
まるでゾンビのように歩き続けるA太。
「あのクソババアめ…」
そんなA太を影から見つめる一人の少女。
その小さな身体が抱えるのは、一挺のサブマシンガン。
「………成敗」
物陰から飛び出した少女は、突如A太に向かって弾丸の雨を降らせる!
「あびゃびゃびゃびゃびゃ!!?」
飛び散る肉と薬莢。
火薬と焼けた肉の匂い。
少女にとってそれは、日常の中の極ありふれたものでしかない。
何故なら彼女は、この街有数のゾンビハンターなのだから!
「………?」
だがしかし、流石の彼女にとっても、その後の光景は驚くべきものだった。
「………!?」
完膚無きまでに撃ち殺した筈の死体が、起き上がって自分の肉を掻き集め出したのだから当然である。
「ふう。
銃弾浴びたのなんて、イラクぶりかなぁ。
あ、そうだそこの君、この場所どこだかわかる?」
少女は驚愕した。
さっき迄ただのゾンビだと思っていた、謎の不死身生物が寄越した下手くそな地図は、どうやら少女の家を指し示しているようなのだ。
少女の頭をストーカーという単語がよぎった。
死んでも死んでも追いかけて来る不死身のストーカー。
ゾンビなどより余程恐ろしい。
「………死ね!」
「うびゃびゃびゃびゃ!!」
粉微塵になるまでサブマシンガンを打ちまくり、弾が切れても尚、予備のハンドガンに持ち替えてそれすら撃ち尽くした。
流石にここまですれば、生き返るのにも時間がかかるようで、ズルズルと動いて行く肉片を眺めるうちに、少女は幾分か冷静さを取り戻した。
そういえば叔母の瑞希姉さんが、昨夜電話で何か言っていた気がする。
『つーわけで、うちの子宜しくたのむわ。
って瑞希お姉様が仰っていました、と、あのおっさんに伝えてくれ。
瑞希お姉様のところで頬を染めて涙目になるのを忘れずにな。
いいか、ここ重要だぞ!』
あの瑞希姉さんが、結婚は愚か恋人なんて作れる筈が無い。
どうせまた、構って欲しくて悲しい嘘をついているんだろう。
実情を知っている少女はそう確信し、電話があった事を今の今まで忘れていた。
「いてて。
ねぇ、ちょっと酷いんじゃないの。
幾ら死なないからって、僕にも痛覚ってものがあるんだよ」
まさかとは思ったが、少女は起き上がったA太に質問を投げかける。
「………貴方が、(瑞希姉さんの)子供?」
「(生年月日が三年前の7月19日であることを考えると実年齢的には)まだ子供です」
「………家庭崩壊の危機!?」
「えっ?」
「………えっ?」
「………………」
「………………」
「………(複雑な家族関係のようだけれど瑞希姉さんは)元気?」
「(僕は死なないので常に)元気です」
「………ほっ」
「えっ?」
「えっ?」
「………………」
「………………」
長くなるので、カットなのである!