食べませんでした。
「はぁい、報奨金の二万五千と二百八十円でぇす」
翌日の朝、瑛太はバースに連れられて、ゾンビバスターズ営業所に報酬を受け取りに行った。
「あれ?
後から来たもう一匹の方は?」
疑問に思うA太。
四本足のゾンビの分の報奨金は払われていない。
「えぇと、こちらのゾンビさんの分ですよね?」
受付嬢が、四つ足ゾンビの腐肉が入れられた試験管を指差す。
「こちらは未認可でしたのでぇ…」
「ホワット!?
あれだけの強さのゾンビが未認可だって?」
「どれだけ強力なゾンビさんでもぉ、例えば出現した直後のゾンビさんなんかだとぉ、事務局の方が存在を確認出来ていない場合がございまぁす。
認可されるまでの間に倒しちゃったらぁ、もう駄目ですねぇ。
このお肉は返却しますのでぇ、後は煮るなり焼くなり好きにしちゃってくださぁい」
試験管の中に詰められた腐肉を見つめる二人。
「おいしい……んですかね?」
「…たとえ美味くとも、俺は遠慮するかな」
その頃マツモトミヨシ素穂市支店の事務室では、相変わらず松原と松浦がしかめた顔を突き合わせていた。
「…験体Aの解析結果がでたそうですね」
「ああ、結果は聞いている。
つまりあれは、人間だったんだろ?」
「信じがたい話ですが、どうやらそのようですね。
験体Aを構成している組織は、一見鉄製に思える脚部でさえ人間のものとほぼ変わらず、また遺伝子も極一般的な人間の男性とほぼ変わらないようです」
「……つまり、どういうことだ?」
「全く持ってわかりません」
「ところでほぼ変わらないという言葉が二回程並んだわけだが、そのほぼとは一体なんなんだ。
全く変わらないではいけないのか?」
調査書を手元に引き寄せて、目を凝らす松浦。
「人間のものに加えて、遺伝子配列にプラナリアとクマムシに近いものが若干含まれているそうです」
世界的人気を誇る微生物界のアイドル、クマムシ種については今更説明するまでもないが、プラナリアについて補足をしておくと、なんか体が千切れても分裂して生き延びたりするすごい奴である。
分裂するといっても条件があったりいろいろするのだが、まあそんなことはどうでも良いのである!
ちなみにプラナリアはごくごく普通の川の上流にうじゃうじゃと生息している。
「…松浦、川遊びの用意だ」
「了解」
かくして二人の休日は、家族連れのレジャー客に紛れて葉っぱの裏を穿り返す作業で消費されることとなった。




