バースさんの独壇場でした。
一方その頃A太は、拳銃を構えてゾンビと対峙していた。
「瑛太君!
その距離では危ない!
早くこっちに戻ってきてくれ!」
「そんな遠くから下手糞な僕が撃ったら、あいつに当たらないどころか間違いなく周辺に被害が出ますよ」
そう言いながら、悠長に片目を瞑って狙いをつけるA太。
「うーん。
まだちょっと難しいかな。
…いいや、めんどくさい」
A太は民家の塀を蹴ると反動で空中に跳ね上がった。
そのまま空中で対岸の塀を蹴りあげ、まるでリニアモーターカーのように対象に急接近する。
あんぐりと口をあけるバースとゾンビ。
A太はゾンビの口の中に拳銃の銃口を突き入れると、片手で引き金を引いた。
「良い来世を」
ズドン。
その小ぶりさからは想像もできないような重低音が響きわたり、ゾンビの頭はトマトのように爆ぜた。
「バースさん、これちょっと威力強すぎない?
腕の骨が粉々になっちゃったんだけど」
何事もなさそうに肩をぐるぐると回すA太。
「……っは。
あ、ああ、そうだな、ちょっと弄っておこう。
でも、基本的にそれは両手で撃つ物だからな?」
A太の戦い振りを見て、バースは内心戦々恐々としていた。
本気で引退を考え始めるバース。
「バースさん?
なんか青い顔してますけど、大丈夫ですか?
家まで僕が担いで行きましょうか?」
「い、いや大丈夫だ。
というか、俺の体重が持ち上がるのか?」
「バースさん三人でお手玉とかも出来ると思います。
腕が潰れたトマトみたいになるとは思いますけどね。
ハハハッ」
「な、なおさら遠慮したいな」
一体何が面白いのやら、ハハハハハと高らかに笑い続けるA太。
その背後に、新たに忍び寄る奇形のゾンビ。
ズブシャアアアァ。
四本ある中でも最も鋭い三本目の足を、ゾンビはA太の腹に突き刺した。
咄嗟に反応し機関銃を乱射するバース。
それを二本目の足で受け流しつつ、一と四本目の足を駆使して防ぎきれなかった銃弾を避けるゾンビ。
「オゥ、シッ!!
最近のお前らは化け物揃いだな!
立てるか、A太君?」
「もうちょっと待って下さい。
アバラ骨が治ったら立ちますから」
「オウケイ!
ジックリ治していてくれたまえ!」
銃弾でゾンビの注意を引き付けるバース。
ゾンビは怒り狂い、バース目掛けて一直線に突っ込む。
それを待ち受けていたかのように、バースは自分の前方に弾幕を張る。
機関銃の銃弾をまともに受けて、ゾンビが大きく後退する。
「おおおおおおッ!」
雄たけびを上げて再度バースに接近を試みるゾンビ。
今度はジグザグに跳ね回りながら接近し、銃弾を寄せ付けまいとする。
バースは敢えて銃弾を発射せず、全神経を総動員してゾンビの動きを観察する。
ゾンビの動きが一瞬固まり、その直後ゾンビは全ての足で地面を蹴り、バースに向かってまるで砲弾のように飛行した。
「ふん!」
バースはその動きを読んでいた。
機関銃で空中のゾンビを殴り、地面に叩きつける。
ゾンビは全ての足を折り、立ち上がることが出来なくなった。
「だ、だれ、だれだ…」
「んあ、何か言ったか?」
「俺は、だ…」
何かを喋りかけたゾンビを、規格外の威力を持つA太の拳銃が射殺した。




