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Dead! Dead!! Dead!!!  作者: quklop
観測者による主観的観測記録
21/98

乗っ取られました。

ピンポーン。

突如六畳間に響き渡る安っぽい電子音。


「ふははは!

わかる、わかるぞォ!

その呼び出し音は囮。

我輩がドアを開けたタイミングで窓から侵入し、そのまま我輩の背を刺すつもりだろう。

だが、浅はかなり!

我輩はそんなちゃちな手には乗らぬぞ、勇者め!」

「魔王様がお召しになっているジャージくらいチープな手ですね」


再度ドアベルが鳴る。


「か、釜谷さん?

いるんだよね?

私です、志倉です!」

「聞き覚えの無い名だ。

去ね!」

「そんなぁ…。

私だってば。

大家の志倉です!

取り敢えず中に入れて!」


恭蔵の表情筋が固まる。

大家といえば、この恭蔵達が暮らす魔王城で最大の権限を持つ絶対的な権力者だ。

その大家に対して暴言を吐くなど、時限爆弾を丸ごと腹の中に飲み込むようなもの。

魔王何ぞよりもよっぽど恐ろしい存在なのである!


恭蔵は無言でドアを解錠する。


「あ、えっと、夜分遅くにごめんね。

コンバンワ」


眼鏡をかけたふんわりとした雰囲気の小柄な女性、つまり大家の志倉が玄関先で頭を下げる。


「いいですよ、そんなの。

ほら、魔王様、さっさと志倉さんにお茶をお入れしなさい」

「い、いいよそんなの。

というか、立場逆ですよね、それ」

「良いのだ。

主従関係とはそういうものらしいからな。

芳乃がそう言っていた」

「は、はあ…」


手慣れた手つきで煎茶を淹れると、恭蔵は食卓の中に比較的片付いているスペースを探してそこに置く。


「済まない。

なにぶん食事中だったもので散らかっているが、存分に寛げ」

「あ、はい。

なんか、こっちこそごめんね」


差し出された座布団の上に正座をする志倉。

恭蔵はその対面に座る……かと思いきや志倉の裏で膝立ちをする。


「肩を揉んでやろう。

だが恩義は感じなくとも良い。

ただ、先刻の我輩の言を忘れる。

それだけで良い」

「え?

えっと、なんだかわからないけど。

じゃあ、せっかくだからお願いするね」


腕の付け根から指の先までのあらゆる神経を全開にし、全身全霊を込めて恭蔵が志倉の肩を揉む。


「あうっ!

…うまいね、釜谷さん」


筋肉の反応から的確にツボを察知し、指先から掌までを絶妙に使い分け、祖母の肩揉みにより幼少の頃から培ってきたカンで、対象の需要を完全に把握する。

神堕暗魔揉(ゴッドフォーリング・ダークサイドマッサージ)。

正に魔王の真髄である!


「ふわぁっ、何だが眠く……ってそうじゃないよ釜谷さん!」

「な、なに!?

この魔王の腕をもってしても、不満だというのか…?」

「いやいやそれでもないよ。

釜谷さんのマッサージは最高だけど、私がここに来たのは釜谷さんにマッサージしてもらう為じゃないんだよ!」


志倉曰く、恭蔵が原因の度重なる騒音騒ぎに、このマンションに住むとある住人が、大家である志倉に以前から苦情を提言していたようだ。

少し前の恭蔵による侵略宣言で、遂に住人の頭がプツリと切れてしまったらしい。


「出来れば今後は静かに暮らして欲しいなぁっていう話と……あ、あとそれから、今晩だけちょっとここに泊めて貰えませんか?」


「ん?

別に構わんが」

「いいですけど」

「「何故?」」


罰が悪そうに、志倉は苦笑いを浮かべた。


「ちょっと、その、怖いんです。

その苦情の人、井上さんっていう男の人なんですけど、正直に言っちゃうと、ここまで怒らせちゃった直接の原因は私にある…というか」

「ふむ」

「詳しくお聞きしましょうか」


「ついさっき、井上さん来てたみたいなんですけど、私うっかり居眠りしてて、チャイムに気がつかなかったんです。

で、またうっかりしちゃって、部屋の鍵開けっ放しだったんですけど、なんかゆさゆさされてるなぁーって思って目を覚ましたら…うっ!?」


その時の事を思い出したのか、志倉がえずく。


「志倉さん、桶用意しましょうか?」

「無理をして全てを語らなくとも良いぞ。

我輩も現世の母と会うとよくそうなる。

アレは辛いものだ。

大体察しもついたしな。

ところで、何故わざわざ我が城を隠れ蓑に選んだ?」

「えっと、そ、その…釜谷さんと芳乃さんくらいしか仲良い人が、いないからです」

「仲、良かったか?」

「さあ?」

「そ、そんなぁ!

バイト先も一緒だし、三人で映画も観に行ったりしたじゃないですか!」

「そうだったか?」

「と、兎に角、今日だけでいいから泊めて!

本当にお願い!!

…その、図々しいのはわかってるけど、私、とても一人じゃ……」


弱々しい態度の志倉。

ここで恭蔵は一つの方程式を導き出す。


我輩、井上倒す→志倉「キャーッ、魔王様カッコイイ!」→志倉を征服=このマンションを丸ごと征服→うっはうは


それを実行するリスクなど、恭蔵の頭には微塵も無かった。


「…ふむ。

大家よ、安心せよ。

直ぐに一人でもぐっすりと睡眠をとれるようにしてみせようぞ」

「え?」

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