こそこそしました。
目を覚ましてベットから起きたフリをしながら、割り当てられた部屋を出るA太。
トーストが焼ける匂いを嗅ぎ当てたA太はリビングに直行する。
「ん。
おはよう、腹ペコ君。
まだもうちょっとかかるぜ。
顔でも洗って来なよ」
「あれ、躯呑ちゃんじゃないか。
ご飯は芽衣さんが作るんじゃないの?」
「芽衣ちゃんは朝に弱いから、たまにあたしが代わりで作るんだ!
まあ、趣味みたいなもんかな。
えへへ…。
………ってか躯呑ちゃんはやめてくれよ。
やめろよ」
「駄目?
可愛いじゃないか、躯呑ちゃん」
「あんた、多分誰にだって可愛いって言うタイプだろ。
うん、あたしにはわかる。
…洗面所の場所わかるかい?」
「昨日使ったから大丈夫」
洗面所の方へ向かう……と見せかけて、バースと芽衣の寝室に忍び足で向かうA太。
朝に弱い芽衣というフレーズは、A太にとって心惹かれるものがあった。
こっそり、こそこそ。
ここそこそ。
心臓の音すら停止させて、ズルズルと寝室への階段を這うA太。
その様はもはや、この作品のゾンビどもよりも余程ゾンビらしい。
床とドアの僅かな隙間から、部屋を舐め回すように覗く。
「ほうほう、意外にも敷布団ですか。
これはポイントが高いですねぇ、解説の躯呑ちゃん」
「なんだ気付いてたのかい。
ってかちゃんはやめろ」
二人仲良く大人達の寝室、いや、愛の巣を覗くA太と躯呑。
ここで躯呑がある異変に気が付く。
「あれ、芽衣ちゃんとバースのおっちゃん居なくね?」
ガチャっと勢いよくドアを開ける躯呑。
もちろんA太の鼻先にドアがぶつかる。
「あ、ごめん」
「だいびょうぶだいびょうぶ。
ぃいねむげざまじにぬぁったびょぼ…うごおぉぉっ」
「いや、全然大丈夫そうじゃないぞ!
ほら、血が…ってあら?」
「ほら、大丈夫でしょう?」
「…何度見ても慣れねぇわ、それ」
「気持ち悪いかい?
非人間的だろう?」
「ん、いや、人間だれだって体を自分で治す力は持ってんだから、あんたはそれがちょっと強いだけでなんとかかんとか……ってか、ここでそういう話をするのかよ」
「なんとかかんとかの部分も聞かせてよ」
「ああはいはい、後でな、後で。
いい加減中見てみようぜ」




