わけがわからなくなりました。
「上を見て」
言われるがままに上空を見上げるA太。
この家は、この付近で最高高度を誇る豪邸なので、満点の星空がA太の目にはよく映った。
「………其の儘上を見続けて。
後それから、口も含めて体は成るべく動かさないで」
外部の動きから脈拍まで、肉体のありとあらゆる部分を停止させるA太。
もはやこれくらいは朝飯前である。
「………25b…fg876……3…48k6j…………」
謎の文字列を呟きながら、A太の周りをグルグルと歩き回る麗華。
「kha……458…kh4………kh246…kh5347…96…95f7……kha…8479n………スタック」
麗華はピタリと足を止めると、軽く背伸びをしてA太の額に自らの額で触れる。
そして、
「………khajatlugha」
最後の言葉を唱えた。
A太は体の機能を殆ど停止状態にしていたため、当然麗華の一連の行動を知覚できなかった。
「………起きて」
A太は麗華に頬を強く抓られることで休止状態から目覚める。
「ふわ、ああ。
…君なら眠気覚ましに銃弾をくれそうな気がしていたけど、案外優しい起こし方でたすか……」
A太の言葉は途中で途切れる。
若干の驚きによる作用だ。
A太達がさっき迄いた屋上は、非現実的な世界へと移り変わっていた。
何処までも広がる、紫と赤と白色の毒々しい草原らしきもの。
硝子のように奥が透けて見通せる巨大な山。
人工的な組み方をされてはいるが、そこに生物の気配を感じられないひび割れた建物群。
雲の代わりに隕石が低空飛行する空では、巨大な苔のような物が足を生やして忙しそうに空中を走り回っていた。
「ええっと、解説の麗華さん。
一体我々は何処にキャトルミューティレイトされたのでしょうか?」
「………意外と冷静ね。
場所は変わってないんだと思う。
動いてないし」
「えっと、つまり………何が起きたのさ」
「………さあ」
「何が起きたら孤児院の屋上のモダンで洒落た床が、こんな紫色になるわけさ?」
「………さあ」
「さあって………さぁ…」
「私にも何が起きているのかはわからない。
けれどそれを起こす方法は知ってるし、元に戻すことも出来るから安心して」
「そ。
なら安心だ」
A太は紫色の地面の上に躊躇無く座り込む。
座り込み、現状についていけない脳味噌をフル回転させた。
麗華には聞きたい事が山程ある。
しかし、それらを全てを聞いていたら、自分は兎も角麗華の一生が終わってしまう。
そこでA太はもっとも身近で、答えに意味を求めやすい質問を一つ選んだ。
「どうして僕にこれを見せようと思ったんだい?」
しかし麗華は、まるで麗華の顔の仮面を被っているかのように無表情になり、其の儘押し黙ってしまった。
「答えられないってこと?」
「………」
「そ」
不気味な程静かな世界に、突如奇妙な鳴き声が響き渡る。
guelnilaconktfuvufut
rsgyzotgbutoquseile
guelnilaguelnilaguelnila
「………元に戻しましょう。
今はあまり良くない」
「あの鳴き声のせいかい?」
「………そう。
アレに来られると、貴方は兎も角私は死んでしまう。
………前と同じようにしてくれる?」
「わかった」
それから暫くして、A太は元通りになったアレクサンドリア家の屋上で目を覚ます。
正常な星空の光を、瑛太は存分に視界に入れた。
「夢じゃ、なかったんだよね?」
「………そう…だとは限らない、かもしれない」
「どっちにしろ、僕ら二人が同時に同じ場所であんな体験をしたわけだ。
……どうなってるんだ?」
「………そうなってるとしか…」
「そ」
その後麗華は自室に戻って寝直し、A太は星空が青空に移り変わる様を存分に楽しんだ。




